「引導」の意味
「引導(いんどう)」には、先に立って導くことという意味がありますが、主に仏教用語として使われることが多く、その際には人を導いて仏教の道に入らせることを意味します。
また、葬儀のときに棺の前に立ち、導師(どうし)が法語(ほうご)を説いて死者を悟りへと導くことという意味もあります。「導師」とは「死者に法語を説く僧」のこと、「法語」とは「仏教の教えをわかりやすく説いた言葉や文」のことです。
そして、「悟り」とは、心の迷いを去って物事の真の意味を理解して自分のものとすることです。つまり、「引導」をごく簡単に言えば、「死者に現世とのつながりを断たせること」であると言えます。
「引導」の使い方
「引導を渡す」
「引導」は、「引導を渡す」というかたちで使われることが多いです。「引導を渡す」には、葬儀のときに僧が死者に仏教の法語(ほうご)や経文(きょうもん)を唱えるという意味があります。
このことには「死者とこの世との縁を切らせる」という意味があります。この意味より、一般的には、死から免れないことを相手にわからせることや、執着しているものなどをあきらめさせることなど、最終的な宣告をしてあきらめさせるという意味で使われます。
また、「最終宣告をする」ことから、「厳しい態度で相手に忠告する」という意味で使われることもあるようですが、こちらは誤った使い方ですので注意しましょう。
例文
- 祖母の葬儀では、長年お世話になっているお寺の住職が引導を渡した。
- 患者さんに引導を渡すときには、いつも自分の無力さを思い知らされる。
- 契約の打ち切りというかたちで、事務所は彼に引導を渡した。
「引導」は「仏教」や「悟り」へと導きますが、使うシーンの違いによって、人を導く先や導いてくれる人などにも違いがあります。場面に合わせて使い分けてみましょう。
「引導」の由来
「引導」は、「誘引開導(ゆういんかいどう)」という言葉に由来しています。「誘引開導」とは「人々を仏の教えに導くこと」という意味です。
「誘引開導」の「誘引」には「誘い入れること」という意味が、「開導」には「堀などを作り、水が流れるようにすること」「人が知識や経験を広げられるように指導すること」という意味があります。
「誘引開導」の出典は、仏教の二大流派のうちのひとつである、大乗仏教(だいじょうぶっきょう)の重要な経典のひとつとされている法華経(ほけきょう)にある、方便品(ほうべんぽん)というお経であるとされています。
「引導」の関連語
「引導」には、「人を仏教へ導く」「死者を悟りへ導く」のように「人を導く」という意味があります。ここからは「人を導く」ことを表す他の言葉についてご紹介します。
「引導」と似ているようでいて、言葉の違いによって導く先や導く方法、導いてくれる人にも違いがあります。
唱導(しょうどう)
「唱導」とは、仏の教えを説いて人を仏教へと導くことという意味の言葉です。仏教の教えを説く人のことを「唱導師(しょうどうし)」と言い、この略称として「唱導」を使うこともあります。
また、自身が先頭に立って、ある思想や主張を唱えて人を導くことという意味もあり、この意味で使う場合には「唱道」とすることもできます。
【例文】
- 彼は各地で唱導している。
- 自分の主張を唱導する。
済度(さいど)
「済度」は仏教用語であり、仏や菩薩(ぼさつ)が、心の迷いの中にあり苦しんでいる人々を悟りへと導いて救うことという意味を持つ言葉です。「済」には「救う」、「度」には「渡す」という意味があり、どちらも「困難なところを越えさせる」ことを意味します。
また、困難な立場や苦しい環境に置かれているところから、人を救うことという意味もあります。
【例文】
- 引導は、済度する儀礼のことである。
- 困っている人を済度する。
補導(ほどう)
「補導」には、人を正しい方向に教え導くことという意味がありますが、特に、青少年による法律や社会規範に反した行いや人として正しい道から外れた行いを防ぐために、彼らを指導することを指して使われることが多いです。
また、狭義には、このような行為をした未成年者に対して警察が行う措置のことを「補導」と言い、この意味で使われることも多くあります。
【例文】
- 近所の子どもが万引きで補導されるところを目撃してしまった。
- 彼は昔、補導されたこともあるが、今は更生して社会貢献活動に励んでいる。
教導(きょうどう)
「教導」とは、学問に関する根本的な考え方や宗教の思想などについて教え導くことを意味します。
【例文】
- 彼は指導者として、信者たちを教導している。
- 彼は近所の青年たちを集めて教導するという活動をもう何年も行っている。