「沽券」の読み方と意味
「沽券」という言葉は「こけん」と読む名詞です。一般的には「沽券に関わる」などの慣用的な言い方の中で使われます。
「沽券」の「沽」という漢字は、「あきなう、売買する」「酒を売る」「大まかで粗い、粗悪である」といった意味を持ちます。また「券」は、元来は「割り符・手形」など「契約や取引の証拠となるもの」といった意味であり、転じて現代では「チケット、切手、切符」などを示す言葉となっています。
このような字の成り立ちから、「沽券」は本来は「物品などの売り渡しの証文」を指した言葉でしたが、現代では「人の値打ち」「体面」「品位」といった意味合いに転化しています。
「沽券」の由来
「沽券」とは、じつは皆さんが語感からイメージされるように、そもそもはいわゆる「チケット」の一種だったようです。
「沽券」は律令制度の時代からある古い言葉で、「売券」「沽却状(こきゃくじょう)」などとも称されたそうです。元来は土地、家屋やその他の諸権利を売却するときに、売り主が発行した証文を指しました。
律令制度では、沽券は売り主が直接出すのではなく、その土地の下級支配者が、上級官吏である「国郡司」に許可を求める形式だったとされます。平安時代に至り、徐々に売り主だけの署名や私的な証人が連署するものに変化していったようです。
こうした不動産売買の際の証文が「沽券」本来の意味合いでしたが、江戸時代ごろから「物品の売値」といった意味でも用いられるようになり、そこから転じて「人の値打ち」や「品位」などを比喩する言葉としても使われ始めたとみられます。
「沽券」を用いた表現
前述のとおり、「沽券」は元来「不動産売却の証文」という意味であり、徐々に「品物の売値」というニュアンスでも用いられるようになりました。
ここから「プライドに関わること」を示す表現に転用され、体面を汚されたり、面子に関わるような場面で比喩的に「沽券」が用いられるようになったようです。
例えば「沽券が下がる」といえば、「人(や組織)の値打ちが低くなってしまう」といった意味を示します。また「沽券に関わる」という表現は「人(や組織)のプライドや面目に差し障る」といった意味合いになりました。ほかにも「沽券に傷がつく」など、これらの言い方は、現在の日常会話や文章でも広く使われる表現となっています。
「沽券」を使った例文と類語
「沽券」の例文
- あんな格下相手に負けるなんて、おれの沽券に関わる。
- ここでしっかり謝罪して説明責任を果たさないと、会社の沽券が下がってしまう。
- この程度で弱音を吐いていては、プロとしての沽券に傷がつくぞ。
「沽券」の類語
- 世間体(せけんてい)…社会に対する体裁や見栄
- 矜持(きょうじ)…自分の能力に対するプライド
- 面目(めんぼく)…世間に対する体面や名誉
- 外聞(がいぶん)…世間体。世間に対する体裁
- 品格(ひんかく)…人や物に備わる品位や気高さ
- 貫禄(かんろく)…見た感じや態度の重み、威厳
「沽券」を使った文の英語表現
「沽券に関わる」にニュアンスが近い、人のプライドを傷つけることを表す英語表現としては、次のような例文が挙げられます。
- You'll lose all respect if you do something like that.
(そんなことをすれば、あなたはすべての尊敬を失いますよ)
- It's beneath your dignity to do something like that.
「沽券」のまとめ
今回は「沽券」という言葉の意味や語源などを繙(ひとも)きました。
「沽券」は奈良や平安といった大変古い時代から使われてきた、由緒ある言葉。時代を経るに従って、現在使われる意味合いに転じてきた経過がおわかりいただけたでしょうか。
普段何気なく使い、よく目や耳にする言葉でも、その成り立ちや変遷を理解すると、語句が持つ重みや意味深さを知ることができます。同時に、日本語を正しく使い、守り伝えることにも役立つのではないかと改めて感じます。