「罵る」とは
人間は、よく「感情の生き物」だと言われます。人間のさまざまな感情を表す喜怒哀楽の中で、「怒(り)」に分類される感情が表に出て、他人にぶつけられる表現の一つが「罵る(ののしる)」です。
「罵る」には、以下のように複数の意味があります。
「罵る」は、現在、主として1の意味で使われることの多い言葉です。2の意味でも使用されることもありますが、3以下は、古典の用法です。
「罵」の字義
「罵」は、音読みで「バ」、訓読みで「のの-しる」と読み、ののしる、口汚く悪口を言うという意味です。
上の「罒」は、「あみがしら」という部首です。「あみ」を意味する「網・罔」の原字「网」の略字で、相手に押しかぶせるという意味があります。下の「馬」は、相手かまわず突き進む馬のことを表しています。
「罵」という漢字は、これら2つを組み合わせて馬が突き進むように、相手かまわず悪口をかぶせるというところから、上記のような意味となっています。
「罵る」の使い方
人が「罵る」のは、自分に対して不快な言動をとった相手に反応したときや、非常に激しやすい人(怒りの沸点が低い人)が相手の些細な言動に対して、瞬間的にカッとなってしまったようなときです。また、自分の言動に対して腹を立てて「罵る」こともあります。
さらに、思いがけないこととに遭遇したときなど、相手が人間でない場合にも「罵る」ことがあります。
例文
- 町中を散歩していると、通りがかった家の中から男女の罵り合う声が聞こえてきた。
- 彼はとても切れやすい性格で、ちょっと気に入らないことがあるとすぐに相手を罵るので、みんな彼とは距離を置いている。
- 仕事でミスをして、心の中で自分を罵りながら言い訳を考えていた。
- 駅に行ったら事故で電車が止まっていて、タクシー乗り場も長蛇の列だったので思わず誰にともなく罵っていた。
「罵る」の類語
「面罵する」
「面罵(めんば)」は、相手に面と向かって罵ることです。「罵る」は、目の前に相手がいなくてもできますが、面罵は相手を前にしての直接対決ですね。
【例文】
- Aさんが、ライバルのBさんと喧嘩したという噂を聞いたが、真相は、BさんがAさんを面罵しただけらしい。
- 戦国時代の歴史小説を読んでいると織田信長が明智光秀を面罵する場面が何度も出てきた。
「毒づく」
「毒(どく)づく」も、激しく罵る、悪口を言うことです。「罵る」と同様に、相手の言動だけでなく、自分の言動、人間以外のことに「毒づく」こともあります。
ここでの「毒」は、人の心を傷つけるものという意味です。また、「づく」は、「吐く」と書き、「一息つく」とか「ため息をつく」と同様に吐き出すことを意味します。
【例文】
- 寝坊して慌てて家を飛び出し、駅で会社に連絡しようとしたら、スマホを忘れたことに気が付いて一人毒づいた。
- 帰宅を急いでいると検問で渋滞していたため、思わず「くそっ!」と毒づいた。
「誹謗する」
「誹謗(ひぼう)する」も、他人の悪口を言うことです。「罵る」のように声高に悪口を言うことはあまりありません。誹謗中傷(ちゅうしょう)という四字熟語がありますが、これは、根拠のない悪口で相手を傷つけることです。
【例文】
- 職場に課長を誹謗する怪文書が送られてきた。
- 噂を真に受けて、他人を誹謗するのはよくないよ。
「罵」を使った四字熟語
「罵」を使って、罵る、悪口を言うという意味を持った四字熟語をいくつか紹介します。いずれの熟語も「~を浴びせる」「~を吐く」などといった表現で使われています。
【罵詈雑言(ばりぞうごん)】
口汚いの罵りの言葉のことです。「罵詈」は、汚い言葉で悪口を言うこと、「雑言」は、悪口やでたらめな言いがかりということです。悪口雑言(あっこうぞうごん)とも言います。
【悪口罵言(あっこうばり)】
言いたい放題好き勝手に悪口を言うこと、または、その悪口のことです。
【冷嘲熱罵(れいちょうねつば)】
冷ややかに嘲笑して、激しく罵倒することです。「冷嘲」は、冷ややかに嘲ること、「熱罵」は激しく罵ることです。