「しじま」とは?
「しじま」は、日本古来の大和言葉であるため、正式な漢字表記はありません。大和言葉は、大陸の文字文化が伝わる以前の日本固有の語であり、もともと漢字がない言葉があるのです。
「静寂」や「(沈)黙」の字を「しじま」と読んでいる例もみられますが、これらは明治時代以降に当て字として使用されたものです。とはいえ、これらの当て字は、以下の「しじま」の意味を如実に表しています。
【「しじま」の意味】
- 静まりかえって、物音一つしないこと。静寂。
- 口を閉じて黙りこくっていること。沈黙。無言。
「しじま」の使い方
「しじま」は、元々は「無言。沈黙」という意味で使われていましたが、現在は、もっぱら「静寂」という意味で使われています。
「静寂」という意味での例文
「しじま」は、文学的な表現です。このため、文芸作品などではよく使われていますが、日常会話などで使うことはほとんどありません。
また、「しじま」には、元来「沈黙。無言」という意味がありますから、「静寂」という意味で使うときも、そこに人はいるけれども、だれも口を利かずに黙っている静けさといったニュアンスを含んで使うこともあります。
【例文】
- 子や孫たちが帰って、にぎやかな宴も終わり、夜のしじまを妻と二人で過ごした。
- 悲しみと絶望に打ちのめされた人々を深いしじまが支配していた。
- 雪が深々と降り積もる夜のしじまを引き裂くように、救急車のサイレンが響いてきた。
- 通夜の夜、悲しみのしじまの中に、誰かのすすり泣く声がかすかに聞こえている。
「無言・沈黙」という意味での例文
「無言。沈黙」の用例として『源氏物語』の「末摘花」の一節をご紹介します。これは、光源氏が、零落(れいらく)した皇族の娘・末摘花に、あの手この手で気持ちを伝えても、まったく返事がないことに対して語る言葉です。
訳文:いったい何度、あなたの無言(沈黙)に負けたことでしょう。
「しじま」の類語
「沈黙」
「沈黙(ちんもく)」は、①黙っていること、②活動せず静かにしていることを意味します。
【例文】
- 上司の激しい怒りをぶつけられても、彼は何も言わずに沈黙を貫いていた。
- 映画監督のA氏は、10年間の沈黙を破って、次々と大作を発表した。
「幽寂」
「幽寂(ゆうじゃく)」は、奥深くひっそりとして静かなことやその様子のことです。「沈黙」は、主に人の言動に使いますが、「幽寂」は、もっぱら風景やものの雰囲気を表現するときに使われます。
【例文】
- 和辻哲郎の『古寺巡礼』を片手に、いにしえの幽寂とした天平時代の古寺を訪ねた。
- 京都龍安寺の幽寂な枯山水の庭を眺めながら、しばし思索に耽(ふけ)っていた。
「森閑/深閑」
「森閑/深閑(しんかん)」は、物音がせず、ひっそりと静まり返った様子のことです。「森閑とした夜」のように「しじま」と同じように使うことができる類語です。「森閑」も、風景やものの様子の表現に使われます。
【例文】
- 観光客で異様な賑わいを見せていた古都の社寺や町中は、世界的な感染症の影響で元の森閑とした佇まいを取り戻しているところもある。
- 子供たちが独立し、森閑とした家の中、毎日妻と二人で昔のアルバムを眺めながら思い出話をしている。
「大和言葉」について
「大和言葉」とは、日本固有の言葉で、漢語や外来語と区別される言葉です。和語、雅言(がげん)などとも呼ばれ、和歌のことや平安時代の女房言葉、御所言葉なども指しています。
「大和言葉」は、日本に古来からある言葉ですから、日本の気候風土によく馴染んだ、柔らかい温もりのある優しい言葉です。また、美しい響きや奥深い意味が特徴とも言われています。
なお、冒頭で「大和言葉なので漢字表記はない」としていますが、現代で使われる大和言葉には当て字も含めて漢字を使っているものもあります。
大和言葉の一例
- 胸を打つ:強く感動する。
- 胸にしみる:印象に残る。
- もちづき:満月。
- 筋がいい:上手。センスがいい。
- おもかげ(面影):記憶に残って心に思い浮かべる姿。
- おもむき(趣):風情(ふぜい)。あじわい。
- 十六夜(いざよい):陰暦8月16日の夜(または、月)