「業を煮やした」とは
「~に業を煮やした」というフレーズをネットや雑誌などの中で見かけたことはありませんか?また、イライラしているシチュエーションの時に、「業を煮やした」と思ったりしたことはありませんか?
「業を煮やした」は、「物事が思うように進まず苛立つこと」を意味する「業を煮やす」の連用形「業を煮やし」に完了の助動詞「た」が付いた形です。ですから、「業を煮やした」は、「物事が自分の思うようにことが進まず苛立ったり、腹を立てたりした」という意味になります。
次に紹介するように、「業」と「煮やす」が組み合わされて「業を煮やす(業を煮やした)」が上記のような意味となります。なお、「業」には三つの読み方があり、読み方によって意味が異なりますが、「業を煮やした」の「業」は、「業(ごう)」の1の意味にあたります。
「業(ごう・ぎょう・わざ)」それぞれの意味
【業(ごう)】
「業」は、仏教の基本的な概念のひとつでカルマとも呼ばれ、次のような意味を持っています。
- 自己の理性によって抑えることのできない心や気持ちの動き。(業を煮やす)
- 身体、言葉、心による人間の行為。それが善もしくは悪となったりすること。
- 自己が行った前世での善悪(特に悪行)により現世で受ける報い。(業が深い。業をさらす)
【業(ぎょう】
- 仕事や職業のこと。(稼業、営業)
- 技能や学問を身につけようとすること。(修業、事業)
【業(わざ)】
- 目的をもって成しえたこと。(神業:かみわざ)
- 仕事。つとめ。(仕業:しぎょう)
- 技術。(業師:わざし)
「煮やす」の意味
「煮やす」には、二つの意味があり、「業を煮やした」の「煮やす」は、1の意味です。
- 怒りや腹立たしい気持ちが激しくなること。
- 煮ること。沸かすこと。
「業を煮やした」の語源
この言葉の語源は、「業」と「煮やした」のそれぞれの持っている意味が作用しています。つまり、「業(平常時での自分の気持ちや心の動き)」が、「煮やす(熱せられる)」ことで、怒りや苛立ちが激しくなったものと言われています。
「業を煮やした」の使い方
「業を煮やした」は、怒りや苛立ちを抑えることができない状況で使われます。また、半ばあきらめの境地になった際にも使われます。
【例文】
- 部下の仕事ぶりに業を煮やした課長は、自ら部下のやるべき仕事をやってしまった。
- 会議の進行のひどさに業を煮やして席を立ってしまった。
- 中盤まで投手の乱調に我慢していた監督は、とうとう業を煮やして交代させた。
- 長年のひどい仕打ちに耐えかね、業を煮やして会社を辞めてしまった。
「業を煮やした」の類語
「業を沸かす」
「業を沸かす」は、「業を煮やす」と同じ意味と語源を持つ慣用句です。ほかにも「業が煮える」という表現もあります。
【例文】
- 母親はあまりに酷い子どものいたずらに業を沸かした。
- 私はひいきのチームの連敗に業を沸かしています。
「堪忍袋の緒が切れる」
「堪忍袋の緒が切れる」とは、「我慢していたことに耐えきれずに怒りが爆発する」ということです。「堪忍袋」という怒りの気持ちを抑える心の広い袋の緒が切れたということを例えた言葉です。
腹を立てたり、苛立つ様子が「業を煮やした」と似通っていますが、怒りのレベルはこちらの方が高いのではないでしょうか。
【例文】
- いつも穏やかな父親もついに堪忍袋の緒が切れてしまった。
- 相手チームの汚いヤジには堪忍袋の緒が切れてしまいます。
「腹に据えかねる」
「腹に据えかねる」とは、「許容できる範囲を超えていて我慢できない」ということです。この言葉も怒りが頂点に達したさまを表し類語と言えます。お腹のなかに怒りを収めておくことができなかったのですね。
【例文】
- 子どもの生意気な言葉が腹に据えかねた。
- 最近は腹に据えかねることばかりで身が持ちません。
「業」を用いた用語
「業をさらす」
「業をさらす」とは、「自分が前世で悪行を行ったため現世でその恥をさらす」ことです。つまり、「前世での悪い行いの報いを現世で受ける」という意味です。あまり良いイメージの意味ではありません。「業を曝す」と漢字表記します。
「業が深い」
「業が深い」とは、「業をさらす」と同様に「前世での罪悪の報いを現世で受ける」ことです。「欲が深い。運が悪い」という意味で使われています。
「自業自得」
「自業自得」とは、仏教用語で「自分の行った善悪の行為の報いを自分が受けること」です。つまり、「自分で行ったことの結果は自分で受ける」という意味です。「自業自得」は、人の行為によって悪い結果が生じたときに、その人に対して使われることが多い言葉です。