「前身」の意味とは
「前身(ぜんしん)」とは、①人の以前の身分や職業、②組織や団体、あるいは制度などの以前の形態、③(仏教において)前世の身体、あるいは前世の身の上のことです。一方、「前身(まえみ)」は、衣服の前身頃(まえみごろ)を省略した言い方です。
「身」には、からだ、じぶん、なかみ、み、本体といった意味があります。「身」の熟語の「身分」は、職業・地位・階級などを表し、なかみや本体という意味からは組織や団体の本質も含めての形態を指していることがわかります。
これらのことから、「前の身」という「前身(ぜんしん)」は、意味が容易に想像がつく理解しやすい言葉ではないでしょうか。仏教における意味ついても同様ですね。以下では、「前身(ぜんしん)」について説明していきます。
「前身(ぜんしん)」の使い方
①の意味の「前身」
日本は長く終身雇用制を維持してきましたが、近年では転職率が高まり、2019年に発表された某リサーチ会社の調査では労働者の7割近くが転職経験者であることが報告されています。
転職する際には履歴書やエントリーシートが必要ですね。そこには自分の前歴、つまり「前身」を記載することになるわけです。転職にはヘッドハンティングから倒産解雇によるものまでいろいろな形態があります。「身分」という意味も合わせて例文をご紹介します。
【例文】
- 新しい部長の前身は官僚だったらしいね。何かやらかして懲戒免職になったのを大学同期のうちの社長に拾われたんだって。
- 中途採用のAさんは、いくつも仕事を変わっているらしい。前身は、塾講師、書店バイト、飲食店勤務と多彩だそうだ。
- 明治維新の立役者には、前身が薩摩や長州の藩士が大勢いる。
- 新しい課長は、優秀で人柄もよく周りから信頼されているが、前身は誰も知らず謎に包まれている。
②の意味の「前身」
②の意味は、組織や団体、制度などの以前の形態のことですから、具体的な現在と前身の組織や制度名をご紹介します。合併統合を繰り返している組織もありますが、主なものだけを記載しています。
【具体例】(後ろに紹介するものが「前身」です)
- JRグループ各社:日本国有鉄道
- 日本電信電話株式会社(NTT):日本電信電話公社
- 厚生労働省:厚生省と労働省が統合
- 東京大学:開成所(東京開成学校)と西洋医学所(東京医学校)が合併
- 早稲田大学:東京専門学校
- 三菱UFJ銀行:東京三菱銀行とUFJ銀行が合併
- パナソニック:松下電器産業株式会社(ブラント名も「ナショナル」「パナソニック」併用から「パナソニック」に統一)
- 成年後見制度:禁治産者・準禁治産者制度
③の意味の「前身」
仏教には輪廻転生(りんねてんしょう)という考え方があります。これは、人間だけでなく動物なども含めて、解脱(げだつ:悟りを開くこと)するまでは六道(ろくどう・りくどう:六つある迷いの世界)を車輪が回るように生まれ変わるという思想です。
そして、次の世界で六道のうちの何に生まれ変わるかは、現世での業(ごう:行い)によって決まると言われています。この思想によって生まれる前の自分が「前身」、死後に生まれ変わった自分が、後に述べる「後身」です。
【例文】
- この間手相を見てもらったら、私の前身は鳥だと言われた。
- 夢で、私の前身だという女性の声を聴いたが、誰も信じてくれない。
「前身」の対義語「後身」
「前身」の対義語は、「後身(こうしん)」です。意味は以下の通り三つあり、それぞれ「前身」に対応しています。
- 人の身分や職業が前とは変わった今の状態。
- 制度や組織・団体が前の形態とは変わってしまったさま。
- (仏教において)生まれ変わった来世での姿。生まれ変わり。
ただし、このうち1の意味の「後身」は、ほとんど使われることがありません。なお、「後身(うしろみ)」と読む場合は、後見頃(うしろみごろ)の略です。
例文
【1の意味の例文】
- ステップアップを目指して転職した後身の身分は、希望に反して以前より地位も待遇も悪くなった。
- 私の今の役職は、ヘッドハンティングによる後身です。
【2の意味の例文】
- 防衛省は、防衛庁の後身の組織です。
- 岡倉天心が初代校長を務めた東京美術学校は、東京音楽学校とともに後身の東京芸術大学に包括された。
【3の意味の例文】
- ニュースを見ていたら、ネパールで仏陀の後身が現れたと報じられた。
- 輪廻転生を信じるなら、私の後身はいったい何だろうか。