「嫣然」とは?
「嫣然」(えんぜん)とは、「美しい女性がなまめかしくにっこりと笑うさま」という意味の言葉です。「艶然」とも書きます。
言葉の意義としては「にっこり笑う」が中心であり、辞書によっては、「美人」や「なまめかしい」の説明をカッコ書きして意味合い程度に留めている場合もあります。
しかし実際の言葉の運用においては、「にっこり笑う」の背景に「美人」や「なまめかしさ」が当然のように含意されるため、基本的には上記のマーカーを引いた意味を「嫣然」と捉えて問題ありません。
「嫣」の字について
「嫣」の字は、「女」と音符「焉」(エン)からなります。この「焉」の字は、漢文の助字として「いずくんぞ」「なんぞ」など疑問・反語を表すほか、状態を表す語としても使われます(「終焉」(しゅうえん)など)。
「嫣」の成り立ちは定かではありませんが、「女という状態」すなわち「女らしい(美しさ)」や、反語的に女を表す、すなわち「何という(美しい)女だろうか」という意味から来ているのではないかと考えられます。
現代においては、「嫣然」という熟語以外に「嫣」の字が使われる機会はほとんどありません。
「嫣然」の使い方
「嫣然」は、「嫣然と(する/笑う)」「嫣然たる(笑い)」というかたちで使います。必ず「笑み」を伴いますが、能動的な笑いに限らず、「不愛想ではない程度に微笑を浮かべている普段の表情」も嫣然と形容することができます。
「嫣然」それ自体に「美人(女)」や「笑う」という意味が内包されていますが、「彼女は嫣然と笑った」という表現は重複表現とはされません。
一点のみ、「嫣然」を描写として用いる際には、この言葉に含まれる「なまめかしさ」をどう解釈するかに注意する必要があります。
「嫣然」に含まれる「なまめかしさ」とは?
「なまめかしい」という言葉には、「若々しい、ういういしい」「しっとりと上品である」「奥ゆかしく、趣がある」「色っぽく美しい」など、複数の意味があります。このうち、どのような笑い方でも「嫣然」と表現できてしまうわけです。
これでは少々困ってしまうかもしれませんが、「なまめかしい」は「生めかしい」とも書く通り、「格式ばったものではなく、いっけん未熟だが、よく洗練された生の状態」が本義であることを押さえておきましょう。
すなわち、作り笑顔や、社交用に調整された笑いではない、「その女性の生の良さが出ている洗練された笑顔」のことを「嫣然」と呼ぶのです。
例文
- 私が後ろから声をかけると、彼女はびっくりした顔で振り返ったが、相手が私だとわかると嫣然と笑った。
- 月夜を背景に嫣然として笑う女怪盗に、警官たちはしばし見とれた。
- 絵画の中のモナ・リザが、嫣然とこちらを見ていた。
- 嫣然無邪気に笑う童女たちを見ていると、こちらまで微笑みを誘われる。
「嫣然」の同音異義語
「えんぜん」と読む熟語を二つご紹介します。「嫣然」を含め、使用率があまり高くないため混同にはご注意ください。
婉然
「婉然」(えんぜん)は、「しなやかなさま」「女性がしとやかで美しいさま」という意味の言葉です。「女性の美しさ」に焦点を当てているところが、「嫣然」とよく似ています。
「婉然」には「にっこり笑う」という意味は含まれていませんが、「婉然と笑う」とすれば、「嫣然(と笑う)」と同義語的に使うことができます。
宛然
「婉然」から女へんを省いた「宛然」(えんぜん)は、「そっくりそのままなさま」「あたかも、さながら、まるで」という意味の言葉です。「嫣然」や「婉然」とはかなり離れた意味となりますのでご注意ください。
「目の前に広がる景色は、宛然天国の如しだ」のように使いますが、現代語では「さながら」などとするのが一般的です。