「蟷螂の斧」の読み方
「とうろうのおの」と読みます。「蟷螂之斧」とも書きます。「蟷螂」は「螳螂」「螗蜋」とも書き、「蟷螂が斧を取て隆車(りゅうしゃ)に向むかう」「蟷螂車轍(とうろうしゃてつ)に当あたる」とも言います。
「蟷螂」とはカマキリのことで、「蟷螂の斧」を直訳すると「カマキリの前脚」、つまりカマキリのカマのことを指します。ちなみに、「蟷螂」は漢字検定1級レベルの難易度の高い漢字です。日本ではカマキリの前脚を「鎌」と呼びますが、中国では「斧」と例えます。
「蟷螂の斧」の意味
「蟷螂の斧」とは、カマキリが自分より明らかに力のあるものにも、相手かまわず前脚を振りかざして襲い掛かろうとすることから、「弱いものがその力の無さを顧みず、軽率に強敵に挑むこと」、「無駄な抵抗」や「はかない抵抗」を意味しています。
これは、弱者が自分の力量をわきまえずに強者に戦いを挑むことの例えですが、強がることの例えとしても用いられます。さらに、万が一にも勝ち目のない相手に対して安易に戦いを挑むことへの戒めの意味もあります。
また、戦いを挑むこと自体が無謀だと思われても、戦いを挑まないといけない時があることを例えることもあるようです。
「蟷螂の斧」の由来
「蟷螂の斧」は、韓嬰(かんえい)が古い故事・逸話を、「詩経」の詩句と関連づけて解説した『韓詩外伝(かんしがいでん)』という書物の次の故事に由来があります。
問其御曰、
此何虫也。
対曰、
此所謂螳螂者也。其為虫也、知進而不知却。不量力而軽敵。
荘公曰、
此為人而必為天下勇武矣。
廻車而避之。
一虫有り。足を挙げて将に其の輪を搏(う)たんとす。
其の御に問ひて曰はく、
「此れ何の虫ぞや」と。
対(こた)へて曰はく、
「此れ所謂(いはゆる)螳螂なる者なり。其の虫為(た)るや、進むを知りて却(しりぞ)くを知らず。力を量らずして敵を軽んず」と。
荘公曰はく、
「此れ人たらば必ず天下の勇武と為らん」と。
車を廻(めぐ)らして之を避く。
斉の荘公(そうこう)が狩りに出かけた際に一匹の虫が馬車の車輪を足でつついているのをみつけ、「これは何という虫か」と尋ねると、従者が「カマキリでございます。この虫は前に進むことしか知らず、後ろに下がることを知りません。自分の力量を顧みずにどんな敵にも向かっていくのです。」と答えました。
すると荘公は「この虫が人間であったならば天下を取るのだろうな。」と言い、馬車を迂回させカマキリを避けて通って行きました。そして、この話が基になり後に「蟷螂の斧」という言葉が生まれました。
「蟷螂の斧」の使い方
「蟷螂の斧」の使い方を、例文を通して見てみましょう。
「蟷螂の斧」の例文
1.私は非力だ。しかし、「蟷螂の斧」と言われようが、男には挑まなくてはいけない戦いがある。
2.大手スーパーに個人商店が値下げで張り合うなんて「蟷螂の斧」だ。
「蟷螂の斧」の引用
『東京八景(苦難の或人に贈る)』:太宰治
『三国志 望蜀の巻』:吉川英治
例文からは、「蟷螂の斧」の戦いは敗戦に等しいものであるということがわかります。
「蟷螂の斧」のまとめ
いかがでしたでしょうか。由来となる逸話の中で、壮公はカマキリの勇気を称えています。しかし、この逸話から生まれた言葉にも関わらず、「蟷螂の斧」は弱者が強者に戦い挑むことを否定する場面で使われることが多いようです。一般的には前に記述した逸話が「蟷螂の斧」の由来とされていますが、実はこの話には後日談があります。
一国の王がただ一匹の虫の勇気に敬意を払って道を譲った話が広まると、荘公の元には命を預けて戦いたいという兵士が集まりました。しかし、荘公が家臣である崔杼(さいちょ)の妻と密通したため恨まれその館で殺された時、事態を聞いた兵士たちが崔杼の館に突撃してその多くが死んでしまったのです。
敵の本陣に無暗に突撃して返り討ちにあってしまうなんて、まさに「蟷螂の斧」にふさわしい結末ですね。