「完膚なきまで」の意味
「完膚なきまで」は、「全身傷だらけになるまで徹底的に」という意味です。
「完膚」とは
「完膚」の「完」は、「完全」「完璧」など「すっかりそろっている、欠けたところがない」という意味です。また「完膚」の「膚」は「体の表面を覆う皮」すなわち「皮膚」のことです。つまり、「完膚」は「完全な皮=傷のない皮膚」を意味します。
「完膚なき」とは
「完膚」は通常、「なき」「なし」など打消しの語と共に用いられます。「完膚なき」は「完膚無き」と表記されることもあり、「完全な皮膚がない」「傷のない皮膚がない」という意味です。
つまり「完膚なきまで」は本来「傷のない完全な皮膚が残っていないくらいに」という意味でした。そしてそこから「徹底的に」という意味を持つようになりました。
「完膚なきまで」の由来
「完膚なきまで」の出典は、中国の『唐書(とうじょ)』の劉迺伝(りゅうだいでん)の以下の一節だと言われています。
(唐の王朝に謀反を起こした蔣鎮は、同僚の劉迺を自分の味方にしようとしました。しかし、劉迺は口がきけないふりを装って返答しませんでした。そこで蔣鎮は劉迺の全身にお灸をすえて皮膚を焼くという拷問にかけ、劉迺に全身やけどをおわせました。)
この逸話では「完膚無し」という表現が用いられていますが、日本においては通常「完膚なきまで」という形で慣用的に用いられています。
「完膚なきまで」の用例
太宰治『誰』
この用例のように、「完膚なきまで」は「迄」という表記が用いられることもあります。
織田作之助『雨』
この用例は、遊郭の妓といい仲になり結婚を約束した豹一という男について書かれた一文です。年季が明けたら夫婦になろうと誓った妓が、よりによってばくち打ちの男に身請けされてしまい、どうしようもないくらいに傷ついた、という意味で使われています。
「完膚なきまで」の例文と使い方
ここまで「完膚なきまで」の意味や用例を見てきましたが、どうやって使ったらいいかいまいちピンとこない、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで、ここでは具体的に例文と使い方を見ていきましょう。
【例文】
- ボクシングのタイトルマッチで挑戦者は現チャンピオンに完膚なきまでに叩きのめされた。
- 私が提出した案は、完膚なきまでに修正された。
- 会議で上司に意見を述べたのだが、完膚なきまでに論破された。
1の例文のように、「完膚なき」は後ろの文に「叩きのめす」「破壊する」「やっつける」「打ち破る」「叩き潰す」などの強い調子の言葉が多く用いられます。その行為を受けた相手が、徹底的に痛めつけられた場合に使われます。
また、2や3の例文のように、「論破する」「修正する」など、その行為を受けたことにより、平常心ではいられないほど精神的に深いダメージを受けたような場合にも用いられます。
「完膚なきまで」の誤った使い方
「完膚なきまで」は「全身傷だらけになるまで徹底的に」という意味です。よって、結果的に痛手を伴わない場合に使うのは誤りです。
単純に「徹底的に」と置き換えてしまうと誤用になる場合がありますので注意してくださいね。
【誤用例】
- 先生に完膚なきまでにご指導いただき、無事試験に合格することができました。
- 完膚なきまでに手洗いをしたので、今年も風邪を引かずに冬が乗り切れた。