「正鵠を射る」の意味
「正鵠を射る」(せいこくをいる)とは、ある物事の急所をしっかりと捉えること、要点を正しくつかんで本質をつかむことです。「せいこうをいる」とも読みます。
「正鵠を射る」の由来
「正鵠を射る」の「正鵠」は、古代の中国で生まれた熟語で「的」という意味です。「正」も「鵠」も「的」(まと)を表し、同じ意味の漢字を重ねて強調しています。
「鵠」は「くぐい」とも読み、日本では白鳥の異名として使われる漢字です。昔の中国では的の中心に白鳥の絵を描く習慣があったと言われ、的そのものを表すようになりました。
弓矢で的の中心を狙うことから、物事の要点や急所を正確に捉えることを表すようになりました。
「正鵠を射る」の使い方と例文
「正鵠を射る」は、小説などの文中やドラマなどのセリフで目にしたことがある方もいるかもしれません。日常的な話し言葉では使う機会が少ないでしょう。
相手の意図が現状に合っている
相手から何らかの提案や意見を訴えかけられたり、考えを主張されたりすることがありますね。その際、相手の考えが現状をしっかりととらえていて、状況に合ったことを述べる様子を「正鵠を射る」として使えます。
- 正鵠を射た意見で、完全に論破された。
- 彼の主義主張は正鵠を得ていて、年長者も感心していた。
理解した上で正しく指摘する
「正鵠を射る」は、授業を受けた時や何らかの説明があった後などに、相手が話した要点をしっかりと理解してから、正しく指摘するといった表現にも使えます。
- 先生は正鵠を射るような発言をした生徒を褒めた。
- 専門家を相手にポイントを的確にとらえて、まさに正鵠を射る疑問を投げかけた。
本質を見抜き相手の弱点を突く
「正鵠を射る」は本質を理解する所から、相手の本質を見抜いて弱点を突くといったニュアンスで使われることもあります。
相手の不誠実な所を責めて追求する、揺さぶりをかけて隠していた本当の気持ちを引き出すといった様子を表すのにも使えますね。
- 自分の性格や行動に対して、ずばりと正鵠を射た指摘を受けて心が折れた。
- 相手から正鵠を射るような言葉を投げかけられ、本音を言ってしまった。
「正鵠を射る」の類語
図星
「図星」(ずぼし)は、的の中心部を表す黒い点のことです。そこから派生して、目当てとしている所、重要な点、急所、狙った所などを表すようになりました。単に「図星」という使い方もできますが、「図星をさす」、「図星を突く」のようにも使えます。
物事を見極めて推し量り重要な所をしっかりと押さえる、隠していた本音を指摘されるといったことを表現できます。現代では本音を指摘する意味合いで使われることが多いでしょう。
- 図星を突いた明確な反論をした。
- 周囲の状況から図星をさして簡潔に指示を出した。
- 相手に自分の真意を指摘され、まさに図星で恐れ入った。
核心
「核心」(かくしん)は、物事の中心や本質をなす大事な点、中核となる重要な部分を言います。
「正鵠を射る」と似た意味で使うなら「核心に迫る」、「核心に触れる」(重要な部分や本質に近づいている)、「核心を突く」(重要な点を指摘する)といった表現が適切です。
- 核心に迫る質問を受け、代表者がしどろもどろになりしっかりと応えられなかった。
- 核心を突いた批判を受けてぐうの音も出ない。
- 未解決の事件の核心に触れて、これ以上追求しないように警告を受けた。
「正鵠を射る」か「正鵠を得る」か?
「正鵠を射る」に似た表現に、「正鵠を得る」があります。「正鵠を射る」も「正鵠を得る」(せいこくをえる)もどちらも正しい使い方なのですが、使われる機会が少なく、「正鵠を得る」を誤用と考えている方もいるので注意が必要です。
明治時代までは「的の中心、物事の本質を正しく得る」ことから「正鵠を得る」という表現が優勢でした。
しかし、「正鵠」が的を表すことから「弓矢を射る動作」を連想させ、「正鵠を射る」という成句が生み出されました。昭和に入ってからこちらが定着し、現代に至ります。
「正鵠を失わず」
「正鵠を失わず」(せいこくをうしなわず)という表現も「(的を外さず)正確に大切な点を逃さないようにとらえている」といった意味合いで使えます。
「失わず」は「失う」(この場合は的を外す、本質を見失うこと)の未然形に打ち消しの助動詞「ず」が付いているので、反対の意味を持つ「正鵠を得る」と同様のニュアンスとなるでしょう。