「人心地」とは
「人心地(ひとごこち)」とは、「緊張から解放されて、ほっとくつろいだ気持ちや、生きているという感じ」のことです。さらに古典の用法として「人ととしての正常な感覚や意識、あるいは平常心」という意味もあります。
緊張や忙しさで自分を見失っている状態から解放され、一段落した時に「人心地ついた」と言います。「人心地」や、後述する「心地」は、人の心の状態をうまく表した言葉です。
「人心地」の使い方
「人心地」は、「人心地がつく」という慣用表現で使われることが多い言葉です。何かをやり遂げたり、安心したりした時の「ほっとする」感情を表すことができます。
例文
- 喪主を務めて慌ただしく過ごしたが、四十九日の法要を終えて、やっと人心地がついた。
- 空腹が満たされて人心地ついたら、急に眠くなってきた。
- 重要なプレゼンを終えて自席に戻り、ようやく人心地がついた。
- 初めてバンジージャンプにトライしたが、飛んだ瞬間は恐ろしくて人心地もなかった。
「心地」とは
「心地(ここち)」が使われた表現は、「人心地」以外にも多く挙げられます。ここで、改めて「心地」の意味を整理しておきましょう。
- 人が物事に対したときに起こる心の状態。心持ち。気持ち。気分
- 考え。思慮。心構え。
- 気分が悪くなること。病気。
- ~のようなありさま。~の感じ。様子。気配。風情。
「人心地」をはじめ、「住み心地」「居心地」「心地よい」などは、1の意味が反映されています。ただし、「心地」そのものに何かしらの感情は含まれません。気分の良し悪し、感情を示す表現を伴って、さまざまな心情を表します。他方、2~4は、主に古典などに見られる使い方です。
例文
- 握手会で憧れのアイドルと直接話ができて、夢見心地だ。
- 彼の乱暴な運転に、生きた心地がしなかった。
- 彼女がプロポーズを受けてくれた時は、天にも昇るような心地がした。
- 猛暑の中、飛び込んだ喫茶店の冷房の風が心地よく、生き返ったような気分だ。
「人心地」の類語
「安心」
「安心」は、「不安や心配がないこと。心が安らかなこと」を意味しています。「ほっとしてくつろいだ」心持が「人心地」と似ています。仏教では「あんじん」と読み、「信心によって、迷いがなくなる境地」のことを言います。
【例文】
- 就活は決してスムーズではなかったが、年末になってようやく内定を取り、両親を安心させることができた。
- 病状は快方に向かったが、まだ安心はできない状態だった。
「安堵」
「安堵(あんど)」は、「安心すること。不安がなくなり落ち着きを取り戻すこと」という意味を持っています。この言葉も「安心」と同様、ほっとする心情を表し、「人心地」に似た言葉です。
【例文】
- 台風の激しい風雨が吹き付けて家全体がきしんでいたが、夜半には落ち着いたので、ようやく安堵して眠りについた。
- 山で行方不明になった友人が無事に救助されたと聞き、安堵した。
「放心」
「放心」には、二つの意味があります。
- ほかのことに心を奪われてぼんやりすること。魂が抜けたようになること。
- 気にしないこと。安心すること。
「人心地」ついてすぐ、ぼんやりと「放心」したような感覚を抱くこともあるでしょう。この場合は、「人心地」と1の意味がグラデーションのように続いていると言えるかもしれませんね。
2の意味は、自分から他者に対して「(心配しないで)安心してくださいね」というニュアンスで「ご放心ください」と使うことがあります。ただし、この用法はあまり使われるものではありません。
【例文】
- 連日、あまりの忙しさに、仕事が終わった後、しばらく放心状態になっていた。
- 大地震の惨状を目の当たりにして、彼は放心したようにただ立ち尽くすばかりだった。
- 怪我はすっかりよくなりましたので、どうぞご放心ください。