「寄る辺」とは?
「寄る辺」(寄る方)は、(よるべ)と読みます。古めかしいイメージで、あまり聞き慣れないかもしれませんね。
「寄る辺」とは、頼りとして身を寄せる場所、たのみとできる親類縁者や配偶者のことです。意味をより深く理解するため、「寄」と「辺」の字義についてみていきましょう。
「寄」の字義
「寄」は、音読みが(き)、訓読みが(よ・る、よ・せる)で、意味は以下の4つです。
- 寄る、立ち寄る
- 身を寄せる、頼る。
- 預ける。
- 集まる、集める。
「寄る辺」においては2の意味が反映されています。同様の使い方の言葉としては、「寄宿」「寄生」などがあります。
「辺」の字義
「辺」は、音読みが(あた・り、べ)、訓読みが(へん)で、意味は以下の5つです。
- そば、あたり、ほとり。
- ふち、へり。
- はずれ。
- 果て、限り。
- 多角形をつくる線。
「寄る辺」で用いられるのは、1の意味です。同じような意味で用いられている言葉には、「川辺」「海辺」などがあります。
「寄る辺」の使い方
「寄る辺」は、「寄る辺がない」という言い回しで使うことが一般的です。頼りとして身を寄せる「場所」という意味がありますが、物理的な家や部屋そのものを指して「寄る辺がある」と表現することはほとんどないでしょう。
単に「身を寄せる」場所ではなく、「頼りとして」という意味を含む以上は、そこに「頼れる存在がある」ということを暗に示しているのです。
辞書的には「たのみとできる親類縁者、配偶者」が定義ですが、血縁や婚姻がすべてではありません。同居している人が家族以外であっても、施設などの場所であっても「寄る辺」たりえます。
加えて、生活力の有無で「頼りになるか否か」を判断しているわけでもありません。心の支え、といったニュアンスもあるでしょう。つまりは、場所があり、そこに共に生活する好もしい誰かがいるなら、その人にとって「寄る辺」と言えるのです。
文例
- 寄る辺ない身には、正月休みは虚しく寂しい時間となってしまう。
- 寄る辺があるかと問われれば、実家があると答えはするが、帰省することはあまりない。
- 私は寄る辺のない孤児だったが、施設で職員を親と思い、仲間をきょうだいと思って過ごすことができた。
「寄る辺」が出てくる和歌
「寄る辺」は、昔の書物にも見られる言葉です。今回は、古今和歌集の有名な和歌を一首紹介しましょう。
この時代、「寄る辺」はすでに「身を寄せる頼りの場所」という意味で使われています。今でいう不倫か、反対された恋かもしれませんね。情熱的な恋の歌とも考えられます。
「寄る辺」の類語
「拠り所」の意味と使い方
「拠り所」は(よりどころ)と読み、意味は2つあります。
- 頼り、頼みとするところ、ささえとなるもの。
- 物事が成り立つ根拠となるもの。
「寄る辺」の類語としては、1の意味が該当します。ただし、「拠り所」においては物理的な場所を指すことは稀です。精神的に頼りとするもの、自分を支えてくれる何かを「拠り所」と呼ぶことが多いでしょう。
例えば家庭や実家、なにかの組織などを指す場合は、場所や建物を含めて「拠り所」と称する場合もありますが、人物や宗教、仕事、趣味など対象の幅が実に広い言葉です。
【文例】
- 田中君にとって、妻と子ども二人が待つ家は心の拠り所だ。
- 他者からはワーカホリックにさえ見える鈴木君は、仕事が生きる拠り所だという。
- 美恵さんは、信仰している宗教を心の拠り所として充実した人生を送っている。