「譚」の読み方と意味
「譚」は音読みで「タン(ダン)」、訓読みで「はなす」と読みます。
「譚」には「かたる」「ものがたり」といった意味があり、単体ではなく別の漢字と組み合わさって熟語として用いられるか、他の語の最後について接尾語的に用いられます。
「譚」の使い方
- 譚詩…バラード
- 譚歌…神話など物語に材料をとって作詞した歌曲、通俗歌
- 奇譚…世にも珍しく面白い物語・言い伝え
- 民譚…民間説話、民話
- 冒険譚…何らかの目的のために危険をおかして物事を成し遂げる話
- 変身譚…人間が動植物などに変身する神話や物語
説話類型の「譚」
異類婚姻譚
異類婚姻譚は、動物や精霊などと人間との結婚を主題とする話の総称です。カエルとの食事や同衾を強要される王女を描いた『かえるの王さま』や、野獣との結婚を強いられる『美女と野獣』などが好例です。
また昔話『雪女』や『天女の羽衣』のように、人間の男性と人外の女性の婚姻を描く異類婚姻譚も数多く存在します。
貴種流離譚
若い神や英雄、王族の者などが、各地を流浪しつつ試練を克服していくような説話類型を貴種流離譚といいます。日本では『古事記』におけるヤマトタケル神話や、スサノオ神話などが有名です。
動物報恩譚
人から恵みを受けた動物が恩返しをする話の総称を動物報恩譚といいます。『花咲かじいさん』や『舌切り雀』、『鶴の恩返し』など、昔話によくあるタイプのストーリーですね。
「譚」と「談」の違い
「譚」よりも身近で一般的な漢字に「談」があります。「談」も「譚」と同様、「かたる」「ものがたり」という意味を持つ漢字です。「談話」や「冗談」などの熟語に用いられます。
字義が同じなので、たとえば「後日談」と「後日譚」はほぼ同義で、言い換えが可能です。ただし、「談」と「譚」には、用いられる際のニュアンスの差異も存在します。
「譚」と「談」のニュアンス
まず「譚」は、物語としてすでに成立している話、あるいは物語として完成されている話を指すニュアンスです。一方「談」は、会話のなかで語られる話や、ちょっとした話題、講談などを指すニュアンスです。
「ストーリー」と「エピソード」の違いを思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。基本的に起承転結があって、話の始まりから終わりまでをひとつのテーマが貫く「ストーリー」に対し、「エピソード」は必ずしも起承転結やテーマを必要としません。
この「ストーリー」にあたるのが「譚」、「エピソード」にあたるのが「談」です。説話類型である「異類婚姻譚」や「動物報恩譚」に「談」が使われないのはこのためです。また「体験談」や「目撃談」のような個人的なエピソードに対しては、「譚」よりも「談」が用いられます。
ですから、たとえば「ねえ聞いた?Aさん夫婦のケンカの後日談!」という会話を「ねえ聞いた?Aさん夫婦のケンカの後日譚!」と言い換えると、ニュアンスレベルで違和感が生じることになります。
「奇譚」と「忌憚」
珍しい話や奇妙な話、不思議な話を「奇譚」と言いますが、この同音異義語に「忌憚」があります。
「忌」は「いむ、きらう」、「憚」は「はばかる、さしひかえる」という字義の漢字です。どちらも似た意味を持っており、この2つを組み合わせた「忌憚」は、「言いはばかること、遠慮」という意味を表します。
「忌憚ない意見を述べる」「忌憚をもたず発言する」のように、ややかたい言い回しにはなりますが、ビジネスシーンなどでも活用可能な熟語です。
漢字表記する際に迷わないよう、「奇(奇妙な)譚(はなし)」「忌(いみ)憚(はばかる)」と覚えておいてくださいね。