「憚(はばかり)」とは?意味や使い方を分かりやすく解説

「憚」という漢字を見たことはありますか?読めそうで読めない、なかなか難しい漢字ですよね。実はこの言葉、時代劇などで耳にしたことがあるかもしれません。現代ではあまり使われなくなった印象がありますが、実は私たちの生活に深く根付いた意味を持っているんです。今回は、この「憚」の奥深い世界を探っていきましょう。

憚(はばかり)とは?憚(はばかり)の意味

遠慮すること、差し支えること、便所を指す婉曲表現、また病気になることやおそれつつしむことなど、多様な意味を持つ言葉です。

憚(はばかり)の説明

「憚」は「はばかり」と読み、主に「遠慮すること」や「差し障り」を意味します。また、一目をはばかる場所という転用から「便所」を指す婉曲表現としても使われてきました。動詞形では「はばかる」「はばかられる」と活用され、音読みでは「たん」と読みます。特に興味深いのは、「憎まれっ子世に憚る」という慣用句では「威張る」という真逆の意味で使われる点です。これは「はびこる」との語感の類似から生まれた誤用が定着したものですが、平安時代から既に使われていた歴史があります。現代では「はばかりながら」という謙遜の表現や、周囲を気遣う場面で使われることが多く、日本人の慎ましさや配慮の文化を反映した言葉と言えるでしょう。

昔の人の繊細な気遣いが感じられる、とても日本らしい言葉ですね。

憚(はばかり)の由来・語源

「憚」の語源は「はば(幅)」に由来するとされています。元々は「幅を利かせる」「広がる」という意味で使われていましたが、時代とともに「遠慮する」「控えめにする」という逆の意味も持つようになりました。この逆説的な意味の変化は、日本の謙遜文化を反映しており、自己主張することを「はばかる」という抑制的な意味合いが強まったと考えられます。また、「便所」を意味する「おはばかり」の表現は、他人の目を「はばかる」場所という婉曲表現から生まれました。

一つの言葉に相反する意味が共存するなんて、日本語の深みを感じますね。

憚(はばかり)の豆知識

面白い豆知識として、「憎まれっ子世にはばかる」ということわざがありますが、実はこれは誤用が定着したものです。本来「はばかる」は遠慮する意味なのに、ここでは「幅を利かせる」意味で使われています。江戸時代のいろはかるたで既にこの表現が使われており、長い歴史を持つ誤用の例として言語学的に興味深い事例です。また、現代では「はばからずに言えば」という表現が、自分の意見を述べる際のクッション言葉としてよく使われています。

憚(はばかり)のエピソード・逸話

作家の夏目漱石は『吾輩は猫である』の中で、「はばかりながら」という表現をユーモアを交えて使用しています。また、歌舞伎役者の市川團十郎家では、舞台で「おはばかり」と言ってトイレに立つ仕草をすることがあり、これは観客への配慮としての伝統的な表現でした。近年では、アナウンサーの羽鳥慎一さんがニュース解説で「はばからずに申し上げますと」という表現を好んで使っており、硬すぎず柔らかい印象を与える話し言葉として現代でも活用されています。

憚(はばかり)の言葉の成り立ち

言語学的に見ると、「憚」は日本語におけるポライトネス(丁寧さ)の表現の典型例です。発話行為理論において、これは「face(面子)を脅かす行為」を和らげるための言語戦略として機能しています。また、一つの語が相反する意味を持つ「反意共存」の現象も見られ、これは日本語の特徴の一つです。歴史的には、上代日本語では「はばく」という形で存在し、中古日本語期に「はばかる」へと変化しました。現代日本語では使用頻度が減少しているものの、敬語表現や謙遜表現としての機能は依然として重要です。

憚(はばかり)の例文

  • 1 会議で意見を言おうと思ったけど、周りの目を憚って結局何も言えなかった
  • 2 先輩の前ではいつも憚りながら話してしまう自分がいる
  • 3 SNSに投稿するとき、他人の反応を憚って文章を何度も書き直してしまう
  • 4 親戚の集まりで、はばかりながらも年収の話を切り出さざるを得なかった
  • 5 電車内で電話が鳴ったけど、周囲を憚ってすぐに切ってしまった

「憚る」の使い分けと注意点

「憚る」を使う際の重要なポイントは、文脈によって意味が大きく変わることです。特に「遠慮する」と「威張る」という正反対の意味を持つため、誤解を生まないように注意が必要です。

  • 「周囲を憚る」=遠慮する(一般的な使い方)
  • 「憎まれっ子世に憚る」=威張る(慣用句限定の特殊な使い方)
  • 「はばかりながら」=恐縮ながら(謙遜の表現)

ビジネスシーンでは「はばかりながら」を意見表明の前置きとして使うと、角が立たずに自分の考えを伝えられます。ただし、多用しすぎると逆に回りくどい印象を与えるので注意が必要です。

関連用語と類語表現

用語読み方意味使い方の違い
忌憚きたん遠慮すること「忌憚ない意見」のように否定形で使うことが多い
畏憚いたんおそれ遠慮すること目上の人に対して使う格式ばった表現
遠慮えんりょ控えめにすること「憚る」より日常的でカジュアルな表現
気兼ねきがね気をつかうこと相手への配慮というニュアンスが強い

これらの類語は、場面や相手との関係性によって使い分けることが重要です。特に「忌憚」はビジネス文書や改まった場面で、「遠慮」は日常会話で使われる傾向があります。

歴史的変遷と現代での使われ方

「憚る」は古くは『万葉集』や『源氏物語』にも登場する歴史のある言葉です。平安時代には既に現在の意味で使われており、日本人の謙遜文化を反映した言葉として発展してきました。

  1. 上代:『はばく』として存在(広がる意味が中心)
  2. 中古:『はばかる』に変化(遠慮する意味が加わる)
  3. 近世:誤用「憎まれっ子~」が定着
  4. 現代:謙遜表現としての使用が主流に

現代では若い世代にはやや古風に感じられる表現ですが、ビジネスシーンや改まった場面では依然として重宝される言葉です。SNS時代においても、他人の目を「憚る」心理は普遍的なものと言えるでしょう。

よくある質問(FAQ)

「憚る」と「遠慮する」の違いは何ですか?

「遠慮する」が単に控えめにすることを指すのに対し、「憚る」は他人の目や評価を気にして自粛するという、より心理的なブレーキが働いているニュアンスがあります。周囲への気遣いや恥ずかしさの感情がより強く含まれているのが特徴です。

なぜ「憚」という漢字に「便所」の意味があるのですか?

他人の目を「はばかる」(気にする)場所という婉曲表現から来ています。直接的な表現を避け、遠回しに表現する日本語の特徴の現れで、同じような婉曲表現には「手洗い」「化粧室」などがあります。

「はばかりながら」は現代でも使える表現ですか?

はい、使えます。特に改まった場面やビジネスシーンで、意見を述べる前のクッション言葉として「はばかりながら申し上げますと」のように使うと、謙虚な印象を与えつつも自分の意見を伝えられる便利な表現です。

「憎まれっ子世にはばかる」の「はばかる」はなぜ「威張る」意味になるのですか?

これは歴史的な誤用が定着したものです。本来「はばかる」は遠慮する意味ですが、「はびこる」(幅を利かせる)と語感が似ているため混同され、逆の意味で使われるようになりました。江戸時代から使われていることから、長い歴史を持つ誤用の例と言えます。

日常生活で「憚る」を使う具体的な場面はありますか?

例えば、電車内で大きな声で話すのを控えるとき、目上の人の前で自分の意見を言いづらいとき、SNSに投稿する前に他人の目を気にするときなど、現代の生活でも「周囲を憚る」場面は多くあります。日本人の「周りを気にする」性格が表れた言葉と言えるでしょう。