「奇譚」とは?
「奇譚」の意味
「奇譚(きたん)」とは、「世にも珍しい話」、「不思議な物語」を表す言葉です。「奇」は、「普通ではない」、「変わっている」、「不思議」という意味で、音読みでは「キ」、訓読みでは「あや(しい)・く(し)・めずら(しい)」と読みます。また、「譚」は「物語」または「物語を話すこと」を指し、音読みでは「タン・ダン」、訓読みでは「はなし」と読みます。
「異聞奇譚」とは
「異聞奇譚(いぶんきたん)」とは、「非常に珍しく変わった物語」を意味する言葉です。「異聞」は「珍しい風聞。風変わりな噂」を表す言葉で、「奇譚」と重ねることで「珍しい」「不思議な」という意味を強調しています。
「奇譚」の使い方
「奇譚」の使い方
- 子供の頃から奇譚を好んで読んでいた。
- 江戸川乱歩・作『パノラマ島奇譚(後に、パノラマ島奇談に改題)』の連載当時の編集者は横溝正史だ。
- この短編集には、秀逸な怪譚や奇譚が収められている。
文学における「奇譚」の用例
引用したのは夏目漱石・著『吾輩は猫である』の一節、主人(珍野苦沙弥)宅を訪れた寒月、迷亭が恋愛談義をする場面です。本作では「奇譚」の他にも、「珍譚」、「美譚」、「経験譚」という言葉が使われていますが、「譚」にはすべて「だん」とルビが振られています。
「そうそう人売りの話しをやっていたんだっけ。実はこの伊勢源についてもすこぶる奇譚があるんだが、それは割愛して今日は人売りだけにしておこう」
次の引用は、H.P.ラヴクラフト・著『狂気の山脈にて(原題:At the Mountains of Madness)』(The Creative CAT・訳)の一節です。 本作の舞台は1930年代の南極で、アメリカから出発した探検隊の生還者のの一人、地質学者ダイアー博士の手記という形で綴られる、超古代の地球の支配者の歴史物語です。
ご存知の通り、この奇譚には南極との関連において恐ろしくも大いなる重要性を持つ一つの未知の言葉が現れ、かの邪悪な領域の中心で幽霊のように白い巨鳥達がその叫びをいつまでも繰り返すのだ。
「奇譚」の類語
「奇譚」の類語には、次のような言葉があります。「 奇(=珍しい)」に相当する言葉が含まれていませんが、語り継がれる物語はありふれた話ではないので、物語の内容に「奇」が含まれていると考えて良いでしょう。
- 「レジェンド」、「伝説」、「神話」
- 「先祖伝承」、「民間伝承」、「言い伝え」、「口碑」、「所伝」、「古伝」
- 「物語」、「ストーリー」
- 「昔話」、「故事」、「古事」
「奇」の文字を使った「奇譚」の類語には、次のような言葉があります。
- 「伝奇(でんき)」、「奇話(きわ)」、「奇聞(きぶん)」
- 「奇想小説」、「怪奇譚」
「奇譚」の英訳
上記の類語に挙げたように、和訳した言葉に「 奇」に相当する言葉を含まない「奇譚」を表す英語表現には次のような言葉があります。
- 「fable」:寓話。伝説。神話。説話。
- 「legend」:伝説。言い伝え。民間伝承。
- 「tale」:(実際の、架空の)話。物語。
また、「奇」の要素を特に強調する場合には、次のような英語表現が可能です。
- 「mysterious story」:不思議な話。
- 「rare incident」:珍しい事件。
- 「strange incident」:奇妙な出来事。
「奇譚」の同音異義語
「綺譚」
「綺譚(きたん/きだん)」とは、「美しい物語」を表す造語です。「綺」は「美しい」、「華やか」、「綾絹(あやぎぬ)」を表す漢字で、音読みでは「キ」、訓読みでは「あや・いろ(う)・うつく(しい)」と読みます。
「綺譚」という言葉を作ったのは永井荷風で、自身の作品『ぼく東綺譚』のタイトルとして使用しました。「ぼく」は、正しくは「さんずい」に「墨」と書きます。この漢字は、江戸時代後期の儒家・林述斎(はやしじゅっさい)が、「隅田川」の名前を漢詩文に残すために作り出した文字でした。この文字を永井荷風が見出し、隅田川近くの私娼窟・玉の井を舞台に、小説家・大江匡と娼婦・お雪の出会いと別れを綴った物語のタイトルに使ったのです。
「忌憚」
「忌憚」とは、「差し控えること」、「遠慮すること」を表す言葉です。「忌」は、「憎む」、「嫌う」という意味で、音読みでは「キ」、訓読みでは「い(まわしい)」と読ます。また、「憚」は、「恐れ慎む」、「かしこまる」、「遠慮する」、「病む」という意味で、音読みでは「タン」、訓読みでは「はばか(り)・はばか(る)」と読みます。
言いづらい内容の意見を遠慮なく、気兼ねなく発言する場合に、「忌憚なく」、「忌憚のない」という言い回しで使われます。