「至宝」とは
「至宝」は、極めて大切な宝物を指す言葉です。多くの場合、「しほう」と読まれますが、慣用的に「しいほう」と読まれることもあるようです。
「至」の字義
「至」は音読みでは「シ」、訓読みでは「いた(る)」です。複数の字義を持つ漢字で、「届く・行き渡る」「この上なく・極めて」などの意味があります。「至宝」の「至」は、後者の「この上なく」という意味です。
「いた(る)」と読むことから、「至宝」を宝物とされるまでの存在に成長することといった意味だと考えている人もいるかもしれませんね。しかし、「至宝」は現時点で宝物と言われる物や人を指しているので、間違えないのようにしましょう。
「宝」の字義
「宝」は「ホウ」または「たから」と読みます。神仏や天子など他人を敬う意味もありますが、「価値のある貴重なもの・大事なもの」あるいは「大切にしているもの」という意味で使われることが多いでしょう。
「至宝」の使い方
「至宝」は貴重な品物に対して使われるだけでなく、偉大な人や大切な物事について用いられることもあります。
【文例】
- これは歴史的にも大変貴重な記録なので、当博物館の至宝として大切に保管されている。
- この墳墓には我が国の至宝ともいえる宝物が収められているらしい。
- 史上最高の選手と謳われた彼は、我が国の至宝とも言えるだろう。
- 美しい彼女の微笑みは、彼にとっていかなる至宝とも比べ難いものだった。
さらに、次の項目では「至宝」が文学作品でどのように用いられているか紹介しましょう。
用例①『ドグラ・マグラ』より
ー夢野久作『ドグラ・マグラ』ー
小説『ドグラ・マグラ』は、ある精神科の独房に閉じ込められている「私」によって語られる物語。引用の部分は、「私」の記憶を取り戻す助けをしている若林教授が、「私」に話しかけている場面です。
若林教授は、「私」の前担当医で自殺したとされる正木教授が、「私」の記憶回復実験を行ったこと、近いうちに記憶を取り戻すと言っていたことを「私」に告げます。
ここでは、異例の実験によって成果を結んだ貴重な被検体である「私」のことを、「当大学の至宝」と称しているのです。
用例②『三国志』より
ー吉川英治『三国志 出師の巻』ー
関羽(かんう)の死後、さまざまな逸話が伝えられましたが、これもそのうちのひとつ。呉の孫権(そんけん)が、呂蒙(りょもう)の働きによって荊州を落して間もなく、呂蒙が急死したことについての噂です。
孫権は「周瑜(しゅうゆ)も魯粛(ろしゅく)も確かに傑物だったが、早逝したり悲願達成できなかった。ところが、呂蒙は荊州を獲ってなお健在だ」と讃えます。
すると、呂蒙は乱心して「私は関羽であるから、必ず呉を滅ぼす」と叫び、悶死してしまったというのです。引用の部分は、呂蒙が取り乱す前の場面、孫権が呂蒙を「周瑜や魯粛以上の呉の至宝だ」と褒めています。
「至宝」の類語
貴重な品物
貴重な品物などを指す「至宝」を言い換える言葉には、次のような言葉があります。
- 珠玉(しゅぎょく):真珠と宝石のこと。転じて、美しい物や立派な物のたとえ。
- 宝珠(ほうじゅ・ほうしゅ):宝玉。
- 奇貨(きか):珍しい品物。利用することで思いがけないほどの利益が得られる品物や機会。
偉大な人物
偉大な人物に対して用いられる「至宝」を言い換えられる類語には、次のような言葉が挙げられます。
- 逸材(いつざい):抜きん出た才能、あるいは、それを持つ人。
- 英才(えいさい):優れた才能、あるいは、それを持つ人。
- 天才(てんさい):生まれつき備わっている優れた才能、あるいは、それを持つ人。
- 賢人(けんじん):賢い人。聖人の次に徳のある人。
- 傑物(けつぶつ):抜きん出て優れた人物。