「奇貨として」とは?
「奇貨」の意味
「奇貨(きか)」とは珍しい品物や財宝のこと。珍しいものは上手く売れば非常に高い値段が付くものです。
とはいえ、世事に疎い人ならせっかくの希少品も適正値で販売できず、買いたたかれてしまうことも。どんな希少品でも売り方が大事で、「奇貨」には、うまく扱えば大きな利益を生む商品やチャンス、という意味もあります。
「奇貨として」の意味
「として」は立場や評価、位置づけを表す言葉なので、「奇貨として」は、「奇貨という位置づけで」「奇貨とみなして」と言い換えられます。
「奇貨」は上手く利用すれば利益になるものなので、「奇貨として」は、「都合よく利用して」とか「このチャンスに乗って」というような意味になります。野球でいう盗塁のようなものです。
「奇貨として」の使い方
- 不正会計が行われていたのは想定外だったが、この事件を奇貨として社長を退陣させてみせる。
- 正確な金額を誰も知らないのを奇貨として、いくらか着服する。
- この夏の猛暑を奇貨として最新のクーラーを導入することに成功した。
「奇貨として」が話題になったわけ
辞典の編集や国語の授業を担当しているならともかく、日常会話ではまず使わない「奇貨」。たまに話題になりますが、いったいなぜでしょう?
実は「奇貨として」というフレーズは政治や法律の分野でちらほら使われているのです。例えば、商標法四条には次のような文があります。
特許庁商標法逐条解説より引用(2019/7/26)
弁理士や弁護士、法務部の人などしか読まないであろう文書ですが、意外なところで使われたと一部では話題になりました。ここでの意味は「利用して」よりも、むしろ「悪用して」といったニュアンスですね。
「奇貨」の由来
「奇貨」の由来は慣用句の「奇貨居くべし」です。チャンスは逃さずに利用しろ、希少品はタイミングを見て高値で売れ、という意味で使われています。
『史記』によると
さて、「奇貨居くべし」という言葉が登場するのは司馬遷の『史記』です。ざっと内容を見てみましょう。
始皇帝が登場する少し前の秦の時代のことです。ある時、秦の商人・呂不韋(りょふい)は秦の太子の庶子である子楚(しそ)を異国で見かけます。なんでも人質として暮らしているそう。
これは大変珍しいことだ、仲良くなっておけば後々役に立つと考えて呂不韋は子楚を保護します。そしてついには子楚は秦の王様に。呂不韋も宰相になります。
このように、将来的に役に立ちそうなものは手に入れておきなさい、という意味で「奇貨居くべし」と言い、珍しいものは「奇貨」と呼んでいました。
実は続きがある
ここで終わればハッピーエンドなのですが、続きがあります。子楚が王になる前に、呂不韋はある美女を献上します。その女性、実は呂不韋の愛人で、子供までおなかの中にいたそう。そんなこととは露知らず、子楚はその女性と生まれた子供、政(せい)を愛します。
子楚の没後は政が後を継ぎますが、不信感からなんと呂不韋を死へと追いやります。こうして呂不韋の野望が潰えた一方、真実を知らずに父親を死なせた政は後に始皇帝となり、中国を統一します。
始皇帝の印象をつくったエピソードでもありますが、陰謀渦巻く政界の様子が垣間見える話でもありますね。