「鬼が笑う」とは?意味や使い方をご紹介

「鬼が笑う」。一般的に馴染み深いのは、「来年のことを言うと鬼が笑う」ということわざかと思いますが、パッと聞いても、なぜ鬼が出てくるのか、よくわからない表現です。そこでこの記事では、「鬼が笑う」の意味や使い方について解説いたします。

目次

  1. 「鬼が笑う」とは
  2. 「鬼が笑う」の疑問
  3. 「来年のことを言うと鬼が笑う」の出典
  4. なぜ鬼は笑ったか
  5. 「鬼」という存在

「鬼が笑う」とは

鬼が笑う」とは、不確かな事柄や、実現性に乏しいことを話す人をからかった表現です。よく知られた用法に、「来年のことを言うと鬼が笑う」ということわざがあります。

「来年のことを言うと鬼が笑う」は、18世紀末に作られた「上方いろはかるた」の「ら」の札に採用されたことで大衆に広まったと考えられています。もっとも、かるたの札になるぐらいですから、その時点ですでに一般的だったと見なすこともできるでしょう。

明日どうなるかさえわからないのが人の運命なのに、さらに遠い未来のことをあれこれ言うのは、愚かで意味がないというのです。つまり、鬼は嬉しくて笑うのではなく、嘲笑しているわけです。

でも、なぜ「鬼が笑う」のでしょう? どうして「鬼」なのでしょうか?

「鬼が笑う」の疑問

じつは「鬼が笑う」という表現の起源ははっきりしていません。ただし、「来年のことを言うと鬼が笑う」ということわざについては、西日本を中心に、その由来を語った民話が複数残っています。

お話の流れはだいたいどれも一緒です。字数の都合で詳しく書くことはできませんので、簡単に骨子だけご紹介すると、不運な目に遭った鬼が、慰められて笑うのです。

例えば、歯や角(つの)が折れてしまった鬼が、「来年になればまた生えてくるよ」と言われて喜んで笑うという具合。そこから「来年のことを言うと鬼が笑う」という表現が生まれたという内容です。

しかし、ここで新たな疑問が湧いてきます。冒頭でご説明したとおり、「来年のことを言うと鬼が笑う」というとき、鬼は人間の行為を、いわば小馬鹿にして笑っているのです。上記の民話のように無邪気に喜んでいるわけではありません。これでは説明として、いまひとつ納得しづらいところがあります。

「来年のことを言うと鬼が笑う」の出典

一説に、「来年のことを言うと鬼が笑う」ということわざの成立は、江戸時代(1603~1868年)の初期といいます。「上方いろはかるた」の成立は天明(1781~1789年)のころです。

以下に、「来年のことを言うと鬼が笑う」をめぐる流れを俯瞰(ふかん)してみましょう。

江戸時代

「来年のことを言うと鬼が笑う」という表現が文献に記録された最古のものは、明暦2年(1656年)の皆虚『世話尽』と見られています。700余りのことわざを紹介したなかに、「来年をいえば鬼が笑う」があるのです。

その後も「来年の事いえば鬼が笑う」など、少し形を変えて、複数の書物でこのことわざが取り上げられていますが、由来について言及した記録は、江戸時代には見当たらないといいます。

明治時代

明治に入ると、ようやく現代と同じ解釈をした記録が登場します。つまり、「先のことなどわからないのに、あれこれ来年の話をするのは愚かだ」という解釈です。そして、「鬼が笑う」の語源らしきものも、ようやく明らかになってきます。

漢文教育の大家・簡野道明が明治40年(1907年)に刊行した『故事成語大辞典』のなかに、以下の記述があります。

 

鬼能く命を知る、伯龍の命、終に貧を免る可からず、故に鬼其の利を営むの徒労なることを笑うなり

上記の引用について、もう少し詳しくご説明しましょう。

由来は『南史』?

前項の引用文は、『南史』(古代中国の南朝に関する史書)の第十七巻に収められている、「劉伯龍の故事」について説明したものです。

 

損同郡宗人有劉伯龍者,少而貧薄,及長,歷位尚書左丞,少府,武陵太守,貧寠尤甚。常在家慨然,召左右將營十一之方,忽見一鬼在傍撫掌大笑。伯龍歎曰:「貧窮固有命,乃復為鬼所笑也。」遂止。

簡約すると、劉伯龍という人物は郡の長官を務めるほどだったが、非常に貧しかったため、税金を上げて楽をしようとした。すると、それを見て鬼が手を打って笑ったというのです。

なぜ鬼は笑ったか

なぜ鬼は笑ったのか? ここでもう一度、簡野道明『故事成語大辞典』の引用をご覧ください。現代語で意訳するとこうなります。

 

鬼は人の命(運命)を見通すことができるため、伯龍が一生貧しいままで終わることを知っていた。ゆえに、税率を上げて楽をしようという行為が無駄であることを知って笑ったのである。

ことわざ「来年のことを言うと鬼が笑う」の由来が『南史』の逸話にあると、明言まではできないものの、不確定な未来の話をして「鬼が笑う」ことの理由には説明がつきます。

人の未来が見えるからこそ、鬼は笑ったのです。不幸な未来が待ち受けているとも知らず、あくせくする人間がおかしくて笑ったのです。

「鬼」という存在

仮に古代中国が「鬼が笑う」の起源だとした場合、重要なことがあります。それは、日本の鬼と違い、中国でいう鬼は「亡霊」や「霊魂」のような超自然的な存在だという点です。

そうした鬼は、姿が見えなかったり、あるいは人間そっくりに変化(へんげすることもあるそうです。そして何より、人間の運命を見通す力を持っているのです。

「鬼が笑う」。ひとつの解釈としてお読みいただければと思います。

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