「狼狽」の意味
みなさんは「狼狽」という言葉を知っていますか?狼狽と書いて、ろうばいと読みます。それくらい知ってるよ!という方もいらっしゃるかもしれませんね。では、狼狽に送り仮名がついて「狼狽える」ではどうでしょう。
「狼狽える」は、狼狽の意味そのものを表した言葉です。読み方は「うろたえる」です。狼狽とは“慌てふためくこと、あるいは狼狽えて騒ぐこと”を意味します。
しかしこの「狼狽」という言葉、よく考えると少し不思議だと思いませんか?慌てふためくという意味なのに、なぜ「狼(おおかみ)」の一字が使われているのでしょう。今回は「狼狽」の基本的な使い方と共に、語源や類語などを詳しく解説していきたいと思います。
「狼狽」の使い方
まずは使い方ですが、先述のとおり「狼狽」は慌てふためく様や状況、心情を説明するときに使用します。例えば「火事の際、妻はなぜかタンスから靴下を持ち出した。あれが狼狽というものか」「財布をなくしたことに気づき、私はひどく狼狽した」「探偵の鋭い指摘に、犯人は狼狽の色を隠せないようだ」といった使い方ができます。
狼狽は名詞ですが「する・した」などを語尾につける、サ行変格活用によって動詞に変わります。一番はじめの例文が名詞、次の例文は動詞として使用しているわけですね。
注意すべきは3つ目の例文です。「狼狽の色」といった使い方をする際の「色」は、主に表情としての顔色を示しています。「顔色が変わる」「驚きの色が浮かぶ」と言ったりしますよね。この場合の「色」も、すべて表情のことなのです。ですから「狼狽の色」とする際は、一度「慌てたような表情」に置き換えて無理のない表現か確かめましょう。
「狼狽」の語源
さて、気になる「狼狽」の語源ですが、この言葉に使用されている「狼」は私たちのよく知るオオカミとは別の生き物です。
「狼」と「狽」は中国の伝承における架空の生き物です。狼は長い前脚と短い後脚を持っており、狽は反対に短い前脚と長い後脚を持っているとされています。
単体では非常にアンバランスなため、狽が狼の背中に前脚をかけるようにして、この2匹は常に一対で行動します。2匹が離れ離れになれば当然バランスを崩して慌てふためく羽目になるため、その様子を「狼狽」と言うようになったのです。
「狼狽」の同義語
「狼狽」の同義語に「周章(しゅうしょう)」という語句があります。この同じ意味を持つ語句2つを並べたのが「周章狼狽」という四字熟語です。意味はやはり慌てふためくことなのですが、「周章」と「狼狽」を並べているので、それぞれの語句単体よりも意味が強調されています。
「周章」の語源は中国の秦代末期に存在した将であると言われています。物事のさきがけを表す「陳勝呉広(ちんしょうごこう)」という四字熟語がありますが、その語源となった将・陳勝に周章は仕えていました。
天下を窺う(うかがう)陳勝は、函谷関(かんこくかん)から長安を目指し兵を進めようとします。ところが敵軍に章邯(しょうかん)という将がいて、先鋒の周章を2度も敗走させてしまいます。その慌てふためいて敗走する様子が「周章」という熟語の語源になったというわけです。
狼が由来の言葉
最後にもう1つ、狼にまつわる熟語を紹介します。「狼藉」という言葉を、みなさんは聞いたことがありますか?狼藉と書いてろうぜきと読みます。「狼藉者」や「乱暴狼藉を働く」なんて言い回しは、時代劇ではおなじみですよね。
狼藉は“乱雑なことや、乱暴を働くこと”を意味する熟語ですが、これにも「狼」の一字が使われています。語源となったのは中国の歴史書の『滑稽伝(こっけいでん)』における、淳于髠(じゅんうこん)という人の列伝です。
淳于髠が酒盛りの様子を語る中に「杯盤狼藉(はいばんろうぜき)」という言葉が出てきます。これは“狼が寝床をこしらえるために下草を踏み荒らすがごとく、酒宴のあとに食器が散らばっている様子”を指した四字熟語です。ここから派生して「狼藉」が“狼が草を踏み荒らしたように乱雑な様子”を表す言葉となったのです。