「寧ろ」の意味
「寧ろ」(むし-ろ)とは、「どちらかといえば」や「どちらかひとつを選ぶとするならば」という意味の言葉(副詞)です。
「寧」は常用漢字ですが、文化庁の音訓表に読みとして掲載されているのは「丁寧」「安寧」などの「ネイ」だけですので、平素の文書などでは「むしろ」とひらがな表記されているケースが多いかもしれません。
ただし、「寧ろ」を「むしろ」と読むのは漢文における訓読に由来していますので、漢字で書くことが誤りというわけではありません。
「寧ろ」の使い方
「寧ろ」は、基本的には二つの要素を並べて比較し、「どちらかといえば(こちらだろう)」「いっそ(こういうことだろう)」と示したい場面で使います。
とても汎用性が広い言葉ですので、論理性が必要とされる公的な文書などはもちろん、日常的な会話でも使用することができるでしょう。
また、単純に二者を比較してどちらか一方を選び取るというだけではなく、「Aではなく、寧ろBである」とすることで、自分の主張したい事柄(B)を強調する意図で使うこともできます。
比較元が省略されることがある
あまり正式な使い方ではありませんが、「寧ろ」は、本来は比較元となるはずの要素を省略して、発言者が選び取る要素だけを抜き出して使われることがあります。
例えば、「(本番で失敗するよりも)今失敗できて、寧ろよかったんじゃないの?」というような発言です。
省略された要素が受け手にとっても自明な場合(明らかな常識である場合や、共通の認識がある場合)であればこの使い方でも構いませんが、誤解を避けるためにも、合理的根拠の薄い「寧ろ」を多用しすぎないようご注意ください。
例文
- 彼は建築家というより、寧ろ芸術家だ。何を作らせてもその才能がいかんなく発揮されるだろう。
- 今回のような大きな被害は、自然の脅威によってではなく、寧ろ自治体側の対策不備によってもたらされたと考えるべきだ。
- 彼女は申し訳なさそうに計画の変更を伝えてきたが、私にとっては寧ろ(そちらのほうが)好都合だった。
「寧」の字について
「寧ろ」における「寧」の字は、冒頭でご紹介したように漢文の訓読に由来します。他にも「なん-ぞ」「いづくん-ぞ」と読むこともあり、意味はいずれも反語的に「どちらかといえば~のほうが望ましい」です。
具体例として、ことわざ「鶏口牛後」の原文に、「寧ろ」の用例を見ることができます。
日本語訳:大きな集団で下位につくより、寧ろ小さな集団で上位となるほうがよい
いっけん「丁寧」などの「ネイ」とは関係が薄そうにも見えますが、「どちらかを選んだ結果、安定した結果に落ち着く」の意から、「安らか」「穏やか」を意味する「寧」の字義に帰着していることがおわかりでしょうか。
「寧ろ」を英語で言うと?
「寧ろ」を英語で言う場合には、以下のように比較の語を用いるのが適切です。
- rather than~(~よりも)
- prefer~(~のほうを好む)
- less ~ than~(~より少ない、~より劣る)
この他にも、二つの文をつなぎ、先行する文を「no」などを使って否定文とすることで、「Aではなかった、寧ろBだった」という形でも「寧ろ」を言い表すことができます。
例文
- I like rest in my house rather than go out in a holiday.(私は休日は外に出かけるより、寧ろ家で休むほうが好きです)
- He is less tired than sleepy.(彼は疲れているというより寧ろ眠いのだ)
- I didn't like her. In fact, I so hated her.(私は彼女が好きではなかった。寧ろとても嫌っていた)