「冥府魔道」とは
「冥府魔道」の意味
「冥府(めいふ)」とは冥土、死後の世界のこと。とくに、地獄のことを指す言葉です。また、「魔道(まどう)」には、仏教用語で悪魔のたぐいが住む世界という意味と、悪の道・異端の道・邪道という意味とがあります。
「冥府魔道(めいふまどう)」はこれらを組み合わせた造語で、修羅道といった意味で用いられます。修羅道は阿修羅道の略です。
阿修羅道は六道の一つで、阿修羅が住む、常に争いの絶えない怒りに満ちた世界のことです。「冥府魔道」は、後述する元ネタのように、血で血を洗う復讐に身を捧げる人生=修羅道を行くことを指しています。
「冥府魔道」の使用例
・たとえ冥府魔道に堕ちようとも、この復讐を果たす。
・仇を求め、再び冥府魔道を行くこととなった。
「冥府魔道」の元ネタ
「冥府魔道」の初出は『子連れ狼』。『子連れ狼』は見たことがなくとも、乳母車に乗り、父のことを「ちゃん」と呼ぶ男の子のパロディーは、様々な作品で見たことがある人も多いでしょう。
「冥府魔道」は、この劇漫画の作者でテレビドラマ版などの脚本も担当した小池一夫の造語です。『子連れ狼』は親子が復讐の旅をする物語で、「冥府魔道を行く父と子」といったナレーションも有名になりました。
「冥府魔道」という四文字言葉は、僕の造語である。別に使っている事に文句を言うつもりはないが、「子連れ狼」の名台詞として大流行し、テレビや映画のナレーションでも「冥府魔道を行く父と子」と持て囃された。ベルセルクよ、色紙を送りなさい。とか言っちゃって。(小池一夫)
— 小池一夫 (@koikekazuo) May 21, 2011
『子連れ狼』とは
『子連れ狼』は、原作・小池一夫、画・小島剛夕で、1970〜76年に『漫画アクション』に連載された劇漫画作品。1987年には北米に輸出され、日本の代表的な漫画作品として支持されています。
主人公の拝一刀(おがみいっとう)は公儀介錯人(身分の高い罪人の死刑執行人)。その地位を狙う柳生一族は一刀の妻や一族を殺害します。
さらに、柳生烈堂(やぎゅうれつどう)は、謀略により一刀に謀反の疑いがかかるように仕向け、拝家はお家断絶、一刀は切腹を命じられます。なんとか逃げ出した一刀は、幼い大五郎を乳母車に乗せ、柳生一族への復讐の旅に出ました。
何度も映画化、テレビドラマ化されている人気作品で、劇場版のひとつは『子連れ狼 冥府魔道』というタイトルです。
「小池一夫」とは
小池一夫は『子連れ狼』を始め『御用牙』『クライングフリーマン』などの漫画原作、「ぼくらのマジンガーZ」「ああ電子戦隊デンジマン」などの作詞などで知られています。
一方で、1977年に開設した「小池一夫劇画村塾」などで後進の育成にあたり、『うる星やつら』の高橋留美子、ゲーム『ドラゴンクエスト』シリーズの堀井雄二などを輩出。「漫画はキャラ起て(きゃらだて)が大事だ」を信条とした「キャラクター原論」を提唱しました。
Twitterで日記や若者たちへのアドバイスを投稿したり、ブラウザゲームの『艦隊コレクション ー艦これー』をプレイするなど、若い世代にも広く知られる存在でしたが、2019年4月に肺炎のため82歳で逝去しました。
「冥府魔道」が用いられている作品
『ベルセルク』
『ベルセルク』は三浦建太郎による漫画作品で、『ヤングアニマル』にて月一回連載されています。中世ヨーロッパを舞台にした剣と魔法の世界を描いたダークファンタジーで、テレビアニメ化、劇場版アニメ化など他のメディアでも展開を見せる人気タイトルです。
本作の台詞で「冥府魔道」が使われたことを受け、その言葉を作った小池一夫は、その言葉を使うことは構わないと言い、「ベルセルクよ、色紙を送りなさい」とユーモアで返したのでした。
『ニンジャスレイヤー』
『ニンジャスレイヤー(NINJA SLAYER)』は、二人のアメリカ人、ブラッドレー・ボンドとフィリップ・ニンジャ・モーゼズによる小説作品で、日本語版書籍やアニメ化されています。
作品の舞台は近未来の日本。平凡なサラリマン(サラリーマン)だったフジキドは、ニンジャ(忍者)同士の争いにより妻子を殺され、自身も瀕死の重傷を負います。
復活を遂げたフジキドが忍者たちに復讐に挑むというストーリーで、「冥府魔道カラテ戦士」は、作中でフジキドの二つ名のように使われました。
『疾風伝説 特攻の拓』
『疾風伝説 特攻の拓(かぜでんせつ ぶっこみのたく)』は、1991〜97年に『週刊少年マガジン』で連載された漫画作品で、原作は佐木飛朗斗、作画は所十三。いじめられっ子の拓が、強さに憧れてつっぱりデビューするという、不良少年たちの姿を描いた作品です。
作中に登場する暴走族は、チームごとに背中の看板(特攻服の背中に刺繍されているキャッチフレーズ)が決まっていますが、横浜の暴走族「魍魎」の背中の看板は「冥府魔道」となっています。