「愚息」:意味
「愚息(ぐそく)」とは「愚かな息子」を意味する言葉です。しかし、漢字だけで意味を取って「愚かな息子」と受け取らないようにご注意ください。「愚息」は謙遜表現です。
これは、日本の謙遜の文化からくる言葉のひとつです。自分や自分の身内については、へりくだった表現を使い、相手や相手の家族には敬意を払った表現を使うのです。昔から続く、相手を立てるという一種のコミュニケーション術といえるでしょう。
したがって、「愚息」の使用対象は自分の息子に限定されます。他人の息子に対しては使いません。
「愚か」について
「愚か」の意味は以下の通りです。
- 頭の働きがにぶいさま。考えが足りないさま。
- 馬鹿げているさま。
- 未熟である。劣っている。
「愚か」「馬鹿」などは、相手をののしったり、制止したりするとき発する言葉でもあるので、基本的にはネガティブな言葉です。しかし、「愚息」は謙遜の意味で使われているため、悪い意味ではありません。
「愚息」:使い方
「愚息」は「愚かな息子」という言い回しですが、決して悪口ではありません。本当の馬鹿息子を「愚息」とは言いません。
この言葉の裏には、親として、子に対しての愛おしさ、「本当は賢い子なんだ」という気持ちが含まれており、息子に対しての愛情がある前提の元に使われます。
たとえ、自分の息子が一流の大学に進んだとしても、素晴らしく心の優しい子だとしても、人前では「私のできた息子は〜」「優秀な息子が〜」などと褒めずに、スマートに謙遜してみせる親こそ、理解と分別のある親と言えるかもしれませんね。
例文
- いつも愚息がお世話になっています。
- おかげさまで愚息も元気にしております。
- 愚息にかわってお詫び申し上げます。
「愚息」に関連する表現
一般的に「愚息」を使うことが多いのは、家父長制度や男性社会の名残りといわれています。父親が多くの権利を持ち、発言する機会が多かったからというわけですね。
では、「愚息」に似た表現には他にどのようなものがあるのか、見ていきましょう。
愚妻
「愚妻(ぐさい)」は、「愚息」と同じような謙遜表現です。ただし、その意味するところは「愚かな妻」ではなく「愚かな自分に付いてきてくれる妻」というものです。
「愚息」は建前とはいえ、息子を愚かだと称していますが、「愚妻」に関しては、自分を愚かであると言っているのです。男子が自分をへりくだっていう語、「小生(しょうせい)」と同じですね。
言葉の意味を知っていれば、「夫が同僚に、うちの愚妻とか言ってる!」と怒るのは恥ずかしいこと。それこそ本当に「愚かな妻」になってしまいますね。
愚女
息子が「愚息」ならば、娘は「愚娘」?となりそうですが、元々娘に対してはこうした種類の謙遜表現は使われていませんでした。
なぜならば、「愚息」とは、男性社会において、後継にあたる息子を世間に紹介する時に使う表現で、後継とならない娘には使われなかったことが理由に挙げられます。
その後、一般的に娘をへりくだる表現で使われ始めたのが、「愚女(ぐじょ)」ですが、愚息ほどポピュラーではありません。
謙遜の美徳
自分や身内のことをへりくだり、相手を立てるという表現は、日本古来からの美徳とされています。
若年層にはそのような表現に否定的な意見もありますが、世間的に見ても、まだまだ根強く残っています。かしこまった関係であればあるほど、このような表現が好まれます。
長く続き、今もなお残っている文化や言葉には、それなりの有用な意味があるものです。あなたも、いずれどこかでこの「愚息」という言葉を使い、日本の奥深い謙遜の美徳を知る日が来るかもしれませんね。