「一瞥」とは?
「一瞥」は、「いちべつ」と読みます。なにかをほんの一瞬ちらりと見ること、少しだけ目をとめること、などを意味する言葉です。
一瞬の視線ですから流し目や横目で見ることが多く、真正面からだったとしても、すぐに目をそらすような見方になります。
「瞥」は、あまり見かけない難しい漢字です。とくに若い世代の方には、意味も読み方も分からないかもしれません。
しかし、「ちらりと見る」ことは日常的な動作です。そのため、「一瞥」は日常会話では出てこずとも、小説などを中心とした書き言葉には多く登場します。
「一瞥」の字義
「一瞥」という言葉への理解を深めるために、漢字をそれぞれに検証してみましょう。「一」には、「ひとつ」、「はじめ」などの他に、「わずか」という意味があります。この「わずか、一瞬」が、「一瞥」の要素です。
「瞥」という漢字は、訓読みが「み(る)」、「ちらりと見る」という意味をもちます。この「一」と「瞥」が合わさり、「一瞥」は、わずかにちらりと見る、という意味をもつに至ったのです。
「一瞥」の使い方
同じく見ることにかかわる「蔑視」「凝視」などの動作には、そこに何らかの感情がこめられています。それに対して、「一瞥」は、あくまで「ちらりと見る」という動作のみを表す言葉です。
なぜ「一瞥」したのかは、そこに至る背景と内容によって決まります。ですが、「一瞥」に感情がこもるとしても、それは後付けされたものにすぎません。
歩いていて突然犬が目に入り、それを一瞥する場合は、単純な見る動作です。あるパーティーに初恋の男性がいると気づき、恥ずかしさからそちらを見まいとしつつ、ちょっとだけ、と一瞥する場合は、その一瞬の視線に感情がこもります。
「一瞥」という語を使うときは、この言葉が動作だけを表すことを理解したうえで、背景に意味をもたせることができれば、様々な情報を伝える深みのある文章になることでしょう。
「一瞥」の文例
動作を表すのみの「一瞥」ですが、下記の文例の「一瞥」にはどのような感情の背景があるのか、あるいは単純な動作表現のみか、それぞれに状況を想像しながら読んでみてください。
- かつて確執があった元上司の鈴木氏は、会議室で私を無視し続けた。私が発言する段になっても、資料をもつ私の手元を一瞥したのみだった。
- 愛犬が行方不明になって3日目、保護センターに似た犬がいると聞いて駆け付けたが、一瞥しただけで自分の犬ではないとわかった。
- 道で転んで膝からの出血が止まらなかった私は、包帯がないかとコンビニに駆け込んだ。若い店員は、私を一瞥すらせず、「ありません」と言い放った。
- 遅刻寸前で自転車を走らせていた山田君は、横道から飛び出してきた男の子を一瞥したが、叱るゆとりもなくペダルを踏みつづけた。
- 大学生の時、ティッシュ配りのバイトをしている憧れの先輩と出くわした私は、一瞥するなりティッシュをもらうのも忘れて駆け去ってしまった。
「一瞥」の類語と使い方
一目(ひとめ):ただ一度だけ見ること。あるいは、ちらりとだけ見ること。最初に記した意味は、回数の「一度」を表すこともあり、その場合は「一瞥」の類語とはいえません。「一目だけでもお会いしたかった」は、「一度だけでも」の意味です。
【文例】松本君は、容子さんを一目みるなり、運命の相手だと感じたそうだ。
一見(いっけん):複数の意味がありますが、「ちらりと見る」が「一瞥」の類語に当たります。
【文例】由美子さんは、一見したところ、いかにも教師という真面目そうな人物だった。
垣間見る(かいまみる):こっそりと隙間から覗き見ること、ちらりと見ること。隙間からちらりと見ることも「一瞥」と言えるので、類語といえます。しかし、偶然目に入る、という意味ももつ「一瞥」に比べると、見ることへの意志が強い言葉です。
【文例】カーテンの隙間から垣間見た女優のAは、息をのむほどの美しさだった。