「韜晦」とは?
「韜晦」は、<とうかい>と読み、次の2つの意味を持っています。
- 自分の才能・地位などをつつみかくすこと。
- 形跡をくらますこと。
例えば、優れた能力がありながらそれをひけらかすことなく、隠し持っている人がいたとすれば、その人は「(自分の能力を)韜晦している」と言えるでしょう。
2番目の「形跡をくらます」意味は、自分自身の身体のありかやその跡を「かくす」ことに由来し、「韜晦に走る」などの慣用句として使われます。
「韜晦」する理由
「韜晦」する人は、なぜ自分の才能やその存在を隠そうとするのでしょうか。「韜晦」という言葉そのものには良し悪しの意味なく、その理由は人ぞれぞれとしか言えません。
しかし、何かを隠す人には、何らかの「意図」がある場合がほとんどです。そのため「韜晦」は、隠すことについて何らかの意図を感じさせる「賢さ」や「思慮深さ」のニュアンスを含む場合が多いようです。
「韜晦」をよく知られたことわざで言い換えれば、「能ある鷹は爪を隠す」となるでしょう。本当に実力のある者は、それをやたらと現わさないものである、という意味ですね。
「韜晦」の使い方
「韜晦」という言葉は、自分の才能・地位を隠している人や、隠していると思われるさまを指して使います。
「形跡をくらます」という意味で使う場合は、単純に「失踪」や「行方不明」という言葉の置き換えとして用いて構いません。
「韜晦」は日常語としてはかなり難解である上、書き言葉としても難しい字を使います。基本的には小説などで用いられる文語的な表現であると受け止め、使用する相手や場面には注意しましょう。
文例
- 普段は冴えない人物にしか見えないが、彼は自分を韜晦しているだけだ。
- 〇〇さんは何も知らないような振りをしていたけど、韜晦趣味のある人だから、皆の前で自分の知識をひけらかすようなことはしたくなかったのだろう。
- 創作に行き詰まったからといって、誰にも告げずに韜晦に走り、山にこもって精神を磨くという時代ではない。(※形跡をくらますという意味)
「韜晦」の字義解説
「韜」(とう)
「韜」の字は、「鞱」とも書き、「革」と「舀(=周=めぐらせる)」の意から、「革をめぐらせて、つつみこむ」「(剣や弓を収める)ふくろ」という意味です。
「韜」の字がつくる熟語には、以下のように「つつみこむもの」や「用いない」という意味のものが含まれます。
- 韜弓(とうきゅう)…弓をふくろにおさめて用いない。また、そのふくろ。
- 韜筆(とうひつ)…筆をおさめて用いない。書くことをやめる。
「晦」(かい)
「晦」の字は、「みそか(月の最終日)」や「夜、暗い」、さらには「愚か」や「見つけられぬようにする、ごまかす」などの意味を持ちます。「大晦日(おおみそか)」などの熟語が知られていますね。
「晦」の字がつくる熟語の中には、以下のように「見つからない、知られない」「暗い」といった意味のものが含まれます。
- 晦名(かいめい)…名をかくすこと。
- 晦冥(かいめい)…くらやみ。くらやみになる。
中国史に見る「韜晦」
「韜晦」という言葉は、古代中国の歴史書である『旧唐書』(くとうじょ)や、同じく中国の兵法書『六韜』(りくとう)に登場します。『六韜』の「韜」がまさに韜晦の韜ですね。
「韜」には「剣や弓を入れる袋」という意味があることから、兵法に関係する用語として頻繁に登場します。ここから派生して、武力を用意しながらも、戦の機会をうかがって包み隠しておく、という「韜晦」の意味に派生したと考えられています。
三国志の「韜晦の計」
中国の有名な歴史書である『三国志』に、「韜晦の計」(とうかいのけい)という戦略とそのエピソードが登場します。
登場人物のふたり、劉備(りゅうび)と曹操(そうそう)が、天下の英雄ついて語り合っていた時のことです。ちょうど近くに雷が落ちたため、劉備は驚いて耳をふさぎました。
それを見た曹操は、劉備を怖がりの小心者と評価しました。しかし劉備は、天下を狙う野心や才能を包み隠すためにわざと小心者の振りをし、曹操を油断させたのでした。これが「韜晦の計」です。
「韜晦」のまとめ
現代社会では、自分の才能や実力を世にアピールし、それを最大限に生かすことを良しとする風潮があります。したがって、「韜晦」の機会はあまり多くないかもしれません。
しかし、自分の知識や実力を自慢げにひけらかす行為によって、相手の不興を買ってしまったという失敗談もけっして少なくないでしょう。
人の世を渡る際には、時には自分の才能や地位を韜晦することも重要だということを覚えておいたほうがよいかもしれませんね。