「さりげなく」の用例
- 客のグラスにさりげなく水を注ぐ。
- 好意がさりげなく伝わるような表現をする。
- おおげさにすると息子は調子にのるから、さりげなくほめる。
このように使う「さりげなく」という言葉、日常的な場面でも改まった場面でも、あるいは会話でも書き言葉でも通用する、用途の広い言葉です。
「さりげなく」は「さりげない」の連用形
ところで、「さりげなく」というのは、「さりげない」という形容詞の連用形です。辞書を引く場合、「さりげなく」では見出し語として載っていない場合があるので注意が必要です。
形容詞の連用形とは、主に連用修飾語になるときの形を言います。連用修飾語とは、動詞・形容詞・形容動詞を被修飾語に持つ言葉です。
上記の例では「注ぐ」「表現をする」「ほめる」といった動詞を修飾しているので、「さりげない」が「さりげなく」という連用形をとっているというわけです。
対義語と類義語
「さりげなく」の対義語として「露骨に」「あからさまに」といった言葉があります。これらの言葉によっていい表される態度や様子とは対照的に、「さりげなく」と言われる身振りや様子は、好ましい、あるいは望ましいものである場合が多いでしょう。一方、類義語としては「何気なく」「それとなく」が挙げられます。
「さりげなく」と「あいまいに」の違い
また、「あからさまではない様子で」という意味では「あいまいに」という言葉も「さりげなく」に近いと言えるかもしれませんが、こちらは時に否定的な意味合いを帯びます。
「思いをさりげなく伝える」と「思いをあいまいに伝える」とでは、前者に比べ後者はあまり望ましくない伝え方であり、もっとはっきり言うべきだったと評価されるような伝え方であるように感じられます。
このように、「さりげなく」は、あからさまでない様子が美的価値観などをともなって肯定的な意味を持つ場合に適します。「服のコーディネートにさりげなく原色を入れている」といった場合、その原色がコーディネートの調和を保ちつつも効果的に生きているということになります。
「さりげなく」は「然り気無く」
ちなみに、この「さりげなく」、あるいはその終止形の「さりげない」を、強いて漢字で表記するならば「然り気なく」、「然り気無い」となります。この「然り」の語源をたどると、「さ」という言葉と「あり」という言葉に分析することができます。
「さ」というのは古い日本語における指示語で、現代語の「その」「そう」などの言葉に当たります。いまでも、「そのようでございましたら」という意味で「さようでございましたら」と言うことがありますが、その「さよう」の「さ」もまさにこれなのです。
「然り気」=「そうである気」
この「さ」に「あり」が合わさった「然り」は、「そうである」といった意味です。「然り気」は、そこにさらに「気」がつくわけですが、この「気」は「気持ち」という意味でもあるし、「様子」や「雰囲気」といった意味でもあります。
ですから、「然り気ない」は、文字通りの意味では「そうである気持ちがない」「そうである様子や雰囲気がない」といったことになります。
そこから、たとえば「さりげない気づかい」であれば、「気づかいをしようとする気持ちや様子がないような形での気づかい」ということになり、つまり「あからさまではない気づかい」という意味になるわけです。
『源氏物語』にも用例が
なお、このように「然り」が古語に由来をもつことからも予想ができるかもしれませんが、「さりげない」という言葉はなかなか歴史のある言葉です。
たとえば『源氏物語』の中にも「さりげなき姿にて、『門などささぬさきに』と急ぎおはす。」という用例があります。