「薫陶」とは?
「薫陶」(くんとう)とは、徳をもって人を感化し、すぐれた人間をつくることを表す言葉です。
由来は、香をたいてかおりを染み込ませ(=薫)、土を焼いて陶器を作り上げる(=陶)。「薫陶」は、香りが染み込むように、土をこねるように、人間の心に影響を与えて丹念に人格を育むさまを表しています。
ひとの人格を構成するものは複雑であり、事細かに分解して説明することは困難であるため、何をもって「薫陶」というのか、具体的に指し示されることは稀です。
「徳」とは?
「徳」(とく)とは、「善い行いをする性格」や「身についた品性」のことを言います。「道徳」「美徳」などの言葉でもおなじみですね。
したがって、徳をもって人を感化する「薫陶」は、人を良い方向へと教え導くことを指します。悪徳や誤謬(ごびゅう)を教えることは、例えそれを授かる側にとって利益になったとしても、「薫陶」と呼ぶことはできません。
「薫陶」の使い方
「薫陶」という言葉は、ごくごく簡略化すれば「教え」と言い換えられます。したがって、「薫陶」は、基本的には何かを教える立場にある人間(教師、親、師など)と、教えを受けた人間のあいだで用いられる言葉です。
教える側が自ら「薫陶する」と言うこともあります。しかし、どちらかといえば、教えられた側が教えた側に対し、敬意や感謝の念をこめて「薫陶を受けた」「薫陶を授かった」と受け身の形で用いられます。
「薫陶」は少々かしこまった表現ですので、日常会話の中で気軽に使うというよりは、祝いの席や送別会など、あらたまった場で使用するのが適しているでしょう。
具体的な事柄については用いない
「薫陶」は、具体的な事柄については用いられません。例えば、「先輩から、この道具はここに置けと薫陶を受けた」というのはNG例です。この場合は単純に「教えられた」や「指導された」と言うべきですね。
薫陶は人格や品位に関わる言葉ですので、その教えがなければ今の自己はいなかったと言えるような、生涯に連なる人生訓や生き方をもたらす事柄について用います。
「先輩の薫陶を守り、新人には安全基準を徹底させる」などのように、与えられた薫陶をもとに自己の具体的な行動を決定する、という使い方であれば問題ありません。
例文
- 選手は引退した身だが、コーチとして若者を薫陶する道も悪くないものだ。
- 部長のこれまでのご薫陶に感謝申し上げます。
- 〇〇教授の薫陶を受けた生徒たちが、今も世界各地で活躍している。
- 今は亡き父母の薫陶を守って、助けを求めている人がいたらすぐに助けることにしている。
「薫陶」の字義解説
「薫」
「薫」という字は、草から香りがたちこめるさまを表しています。意味は、「かおりぐさ(香草)」「かおり」「におい」「香をたく」などです。
「香をたいて、かおりがうつる」から転じて、「薫」は「人を感化する」という意を含んでいます。この意味の「薫」を用いた熟語の例は次のとおりです。
- 「薫育(くんいく)」…徳をもって人を導き育てる
- 「薫化(くんか)」…徳をもってよい方に導く
「陶」
「陶」の字は、土でできた山(丘、台地)が二つ重なりあっているさまを表し、「土を重ねる」「やきもの」「せともの」などの意味があります。「陶器」などでおなじみですね。
丹念に土をこねるさまを人格形成に例えから、「陶」に「人を教え導く」という意味が備わりました。「陶」は、以下のような熟語を作ります。
- 「陶化(とうか)」…感化し、教え導く
- 「陶冶(とうや)」…人間の持っている性質を円満に発達させる
「薫陶」の英語表現
「薫陶」を英語で表現するには、以下のように「教え」「学び」「指導」に関係する単語を用いるのが適しています。
- education
- discipline
- learning
- training
- tutelage
「人格」や「徳」のニュアンスまで一語でぴったりと言い表すのは少々困難ですが、教え導く人への感謝や敬意を適切に織り交ぜることで、「薫陶」の意を伝えやすくなるでしょう。
「be under one's education」(その人の薫陶を得て)などの表現のほか、上記の単語に「good」などをつけて「良き教育」とすることでも、「薫陶」を表すことができます。
例文
- I am thanks to Professor Nakajima's excellent education.(中島先生のご薫陶に感謝を申し上げます)
- She and I also learned from him.(彼女も私も、彼から薫陶を受けました)