「質実」とは?
「質実」の「質」の字は、質素、質朴という意味をもち、「実」は誠実という意味をもちます。
この二つの字のとおりに、「質実」とは、飾り気なく質素で、誠実・真面目であること、また、そのさまを意味します。
人間の性質として用いられることが基本ですが、「そのような性質をもつ」という意味で、組織などのありようを示す場合もあります。
「質実」の使い方
【文例】
- 過去の日本において、日本人の美徳のひとつとして「質実」が大きな意味を占める時代があった。
昨今、日常会話において、「質実」がこの二文字のままで用いられることは、ほとんどなくなりました。
文書や公的な言い回しのなかで目にすることが稀にありますが、もっとも頻繁に見聞きするのは、「質実剛健」という四文字熟語においてです。
「質実剛健」とは?
「質実剛健」の「剛健」は、心・身体が強くたくましいことを意味する言葉です。したがって、「質実剛健」とは、飾り気なく、素朴な真面目さをもち、かつ心身が力強くたくましいこと、また、そのさまを意味します。
「剛健」(心身のたくましさ)という部分から、おもに人格への誉め言葉として用いられる四文字熟語ですが、シンプルで質がよく、かつ頑丈である、という解釈のもと、商品の特性に用いられることがあります。
わけても、ドイツ製の時計・車を紹介するさいに「質実剛健」をキャッチフレーズとするケースが見られます。歴史をもち、シンプルなデザインで壊れにくい優秀な商品、というイメージは、たしかにドイツの産業文化のひとつであるといえましょう。
「質実剛健」の由来
「質実剛健」は、その由来を、明治天皇による詔書にさかのぼります。国家発展のために、日本国民は、仕事に精を出し、贅沢をせず質素を重んじ、勤勉でありつづけるべし、という内容の明治天皇の御言葉を含む「戊申詔書」を明治政府が表しました。
かつて、中央大学がその詔書の一説を訓示として引用し、卒業生であった記者の1人が、その訓示をもって母校の校風を「質実剛健」と評したことが、この言葉の直接的な由来となっています。
そのような背景があったからか、「質実剛健」は、個人の性質を表すとともに、社風・校風などを表す「社訓」「校訓」として掲げられることが多い言葉です。
「質実剛健」の使い方
- 出身高校の校訓は「質実剛健」なうえに、僕は野球部だったんだ。青春を思い返すと、まさに質素、真面目、丈夫な身体で勉学と運動に励むという、いまどき天然記念物みたいな高校生活を送っていたよ。
- 私の彼は、質素で素朴で真面目なの。健康優良児みたいだし、まわりからは「質実剛健」な恋人だと褒められるけど、二人でお洒落をして、高級フレンチ・レストランでデートなんて夢のまた夢よ。
「質実剛健」の類語
現代社会の若者のイメージからは「質実剛健」的なものはあまり見て取れませんが、この言葉や類語などは、いまでも、おもにスポーツ界を中心に大きな価値をみいだされています。
とくに以下の四文字熟語は、相撲界で大関や横綱に昇進したさいの決意の表明として用いられることがあります。
- 剛毅朴訥(ごうきぼくとつ):心がたくましく、しっかりとし、かつ飾り気のないこと。
- 剛健質朴(ごうけんしつぼく):質素で素直、心身ともに頑強なこと。
- 不撓不屈(ふとうふくつ):心が強くたくましく、質素で飾り気のないこと。
「質実国家」とは?
「質実」という言葉を、かつてある政党が結党理念として用いたことがありました。1993年、「新党さきがけ」の結党時、田中秀征氏が「質実国家」という言葉を考案して理念に掲げたのです。
そののち、細川護熙氏が、細川内閣の所信表明演説のなかでも、自身の政治理念を表す言葉として「質実国家」を挙げています。