「嘗て」とは
「嘗て」の読み方と表記
「嘗て」の読み方は「かつて」です。話し言葉においては「かって」と読まれることもありますが、正しい読み方は「かつて」であるとされています。
「嘗て」の別表記に、「曽て」「曾て」の二つがあります。しかしながら、平仮名で「かつて」と表記されるのが一般的です。
「嘗て」の意味
「嘗て」には次のような意味があります。
- 昔。以前。前に。
- (下に打ち消しの語を伴って)今まで一度も。ついぞ。
- (下に打ち消しの語を伴って)全然。決して。少しも。
- すべて。みな。ことごとく。
現代においては、「嘗て」は主に1または2の意味で用いられています。この1と2については、追って詳しくご説明します。
①「昔・以前・前に」
「嘗て」の意味の一つは、過去のある時点においてその事柄が成立した様子、つまり、「昔・以前・前に」です。
「嘗て」の類語
この意味で用いられる「嘗て」は、「以前・過去・昔」、または「あるとき・いつぞや」などで言い換えることができます。
「嘗て」の使い方
- 嘗て、イギリスに滞在した折に彼に会ったことがある。
- 嘗てはこの辺りも田畑や里山ばかりの静かな場所だった。
- 旅先で、偶然、嘗ての恋人に再会した。
②「今まで一度も・ついぞ」
「嘗て」は、「嘗て〜ない」、または「嘗てない〜」のように、下に打ち消しの語を伴って「今まで一度も・ついぞ」という意味を持ちます。
「嘗て」の類語
この意味で用いられる「嘗て」は、「今まで〜ない」「初めて〜した」のような言い回しで言い換えることができます。
また、今までに例がない様子を表す「空前(くうぜん)」や、今までに聞いたことがないという意味の「前代未聞」などは、「嘗て」を一言で言い換えられる類語です。
「嘗て」の使い方
- 嘗てこの競技において、ルーキーが優勝したことは一度もない。
- たゆまぬ努力が実って、彼はこの業界で嘗てない大成功を収めた。
「未だ嘗てない」
「未だ嘗てない(いまだかつてない)」は、「嘗てない」をより強調した表現です。「未だ嘗て〜ない」「未だ嘗てない〜」のように用いられます。
- 未だ嘗てこの数学の定理を解いた者はいない。
- 今回の台風は、未だ嘗てない被害をもたらした。
「嘗て」の英語表現
"ex-"または"former"
"ex-"や"former"は「嘗ての○○」を表現できる言葉です。
【例】
- "I ran into my ex-girlfriend[former girlfriend] the other day."(訳:この前、嘗ての恋人とばったり会った。)
また、「嘗ての恋人」は"ex"の一言で表す場合もあります。上記の"ex-girlfriend"は"ex"で置き換え可能です。
"used to do"
"used to do"は、「(現在と比べて)嘗ては〜したものだ」「(現在は違うが)嘗ては〜だった」という表現です。
【例】
- "She used to be my girlfriend."(訳:彼女は嘗て恋人だった。)
- "He used to smoke."(訳:彼は嘗てはタバコを吸っていた。)
"before"
「嘗ては〜だった」は、過去形に"before"を組み合わせて表現することもできます。
【例】
- "Before He smoked a box of cigarettes a day."(訳:嘗て、彼は一日に一箱タバコを吸っていた。)
"once"を使うこともできますが、例えば、"I studied French once."のように、「1回だけフランス語を勉強した」のか「嘗てフランス語を勉強した」のか、文脈によって意味合いが変わってしまう場合があります。
現在完了形を使った表現
「嘗て〜ない」を文字通りに英訳する場合、現在完了形と否定を表すneverで表現します。
【例】
- I have never seen such a heavy snow.(訳:嘗てこんな大雪を見たことがない。)
現在完了形を使った意訳
また、「嘗て〜ない」を、現在完了形とthe first timeを使った「〜は初めてだ」や、現在完了形と最上級を組み合わせた「今までで一番〜」のように意訳することもできます。
【例】
- This is the first time I have ever seen such a heavy snow.(訳:こんな大雪を見るのは今回が初めてだ。→嘗てこんな大雪を見たことがない。)
- This is the heaviest snow I have (ever) seen in my life.(訳:今まで見た中で一番の大雪だ→嘗てこんな大雪を見たことがない。)
「嘗」を含む言葉
「嘗」という漢字は、「ショウ・ジョウ」または「かつ(て)・こころ(みる)・な(める)」と読みます。
字意は、「舌で味わう」「試してみる」「過去・以前」「その年に新しく収穫した穀物を神に供える秋の祭り」です。
「臥薪嘗胆」
「臥薪嘗胆(がしんしょうたん)」は、目的を果たすために、苦難に耐えて機会を待つという意味です。「臥薪」は固い薪(たきぎ)の上で寝ること、「嘗胆」は苦い肝(きも)をなめることを指しています。
「辛酸を嘗める」
「辛酸(しんさん)」は、辛い目や苦しい思いを指す言葉です。「辛酸を嘗める」とは、辛く苦しい目に遭うことを指しています。
「新嘗祭」
「新嘗祭」は、「にいなめさい・しんじょうさい」と読みます。宮中行事の一つで、その年に収穫した穀物を神に捧げて感謝し、次の年の豊穣を祈る祭儀です。