「宿痾」とは?意味や使い方をご紹介

「宿痾」という言葉をご存知ですか?「宿痾」と書いて「しゅくあ」と読みます。話し言葉ではないので、小説や記事、あるいはゲームのテキストなどでしか触れる機会がないかもしれません。今回は「宿痾」の意味や使い方について解説します。

目次

  1. 「宿痾」とは
  2. 「宿痾」の使い方
  3. 「宿痾」の類語
  4. 「持病の癪」とは

「宿痾」とは

「宿痾」の意味

「宿痾」と書いて「しゅくあ」と読みます「宿痾」とは、「長い間治らない病気・慢性の病気」という意味です。文語的な言い回しで用いられることが多く、日常会話にはほとんど使われません。

「宿」という漢字

「宿」の読み方は、音読みでは「シュク・シュウ・スク」、訓読みでは「やど・やど(る)・やど(す)」。「宿」には、泊まる・とどまらせる・以前からの・泊まる場所などの意味があります。

「痾」という漢字

字が小さいと見にくいかもしれませんが、「痾」は、やまいだれに「阿」と書きます。読み方は、音読みでは「ア」、訓読みでは「やまい」。長い病気・重い病気・持病・こじれて治りにくい病という意味です。

あまり使うことのない漢字ですが、「痾」を含む熟語には、重い病気を表す「重痾(じゅうあ)」、長患いの療養をすることを指す「養痾(ようあ)」などがあります。

「宿痾」の使い方

「宿痾」は日常的な言い回しでは用いられない言葉なので、文学作品から用例をご紹介します。

堀辰雄『楡の家』より

次の引用は、「宿痾のために亡くなった」という使い方の例です。

その新聞の記事で見ると、この一箇年殆ど支那(しな)でばかりお暮しになって、作品もあまり発表せられなくなっていられた森さんは、古い北京の或る物静かなホテルで宿痾のために数週間病床に就かれたまま、何者かの来るのを死の直前まで待たれるようにしながら、空しく最後の息を引き取って行かれたとの事だった。

ー堀辰雄『楡の家』ー

『楡の家(にれのいえ)』は、堀辰雄による長編小説『菜穂子』の前日譚。この『楡の家』の主人公「私」は、『菜穂子』の主人公・菜穂子の母です。『楡の家』は、発表当初は『物語の女』というタイトルでした。

主人公「私」は、生来のロマネスクな性格で、夫の死後は、小説家の森於菟彦(もりおとひこ)との恋に生きました。娘の菜穂子は、そんな「私」の生き方に反発。『楡の家』では、いつか娘に読んでもらうために書いた日記という形で、「私」と森との交流が綴られていきます。

引用したのは、第二部の冒頭。「私」が森の死を新聞で知ったシーンです。

吉川英治『新書太閤記 〜第十一分冊〜』より

次の引用は、手こずらされた対象を「宿痾の癌(がん)」と喩えている例です。

元来、紀州の統治は、信長すら手を焼いた宿痾の癌だった。

ー吉川英治『新書太閤記 〜第十一分冊〜』ー

吉川英治による『新書太閤記』は、豊臣秀吉の生涯を描いた長編小説。引用したのは最終巻にあたる第十一分冊に収められている、紀州征伐の場面です。

根来衆(ねごろしゅう)や雑賀衆(さいがしゅう)といった僧兵や、瀬戸内の海賊などの反対勢力がいる紀州の平定には、織田信長ですら手を焼いていたという描写に「宿痾の癌」と比喩が用いられています。

この後に登場する「手術」という言葉は、「宿痾の癌」と対になる表現です。
「こんどは、やるぞ」
 と、意を決した秀吉であるから、信長さえ持て余した手術ではあったが、いつになく、峻烈(しゅんれつ)な風があった。

「宿痾」の類語

「持病」

「持病」は、宿痾と同じく「完治せず、いつも悩まされる病気」という意味です。「持病の神経痛に苦しむ」のように用いられます。

「持病」のもう一つの意味は「なかなか直らない悪い癖」で、「持病の癇癪(かんしゃく)が出た」のように使われます。こちらの意味は、宿痾にはありません。

「痼疾」「宿疾」「宿病」

宿痾と意味を同じくする言葉には、「痼疾(こしつ)」「宿疾(しゅくしつ)」「宿病(しゅくびょう)」が挙げられます。

「痾」を含む類語

「積痾(せきあ)」「沈痾(ちんあ)」「病痾(びょうあ)」も宿痾と同義の言葉です。「旧痾(きゅうあ)」にも、宿痾と同じく「いつまでも治らない病気」という意味がありますが、「以前にかかった病気」という意味もあります。

「持病の癪」とは

時代劇や落語などで「持病の癪が…」というセリフがよく出てきますね。この場合の「癪(しゃく)」は、胸や腹のあたりに起こる激しい痛みの総称です。胆石症・胃痛・虫垂炎(盲腸)・生理痛など、なんでも「癪」と言います。

「持病の癪」は、原因はともかく、「すごくお腹が痛い」ことを表しています。この場合の持病は宿痾と同義ですが、「宿痾の癪」というセリフは無いようです。


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