「宿痾」とは
「宿痾」の意味
「宿痾」と書いて「しゅくあ」と読みます。「宿痾」とは、「長い間治らない病気・慢性の病気」という意味です。文語的な言い回しで用いられることが多く、日常会話にはほとんど使われません。
「宿」という漢字
「宿」の読み方は、音読みでは「シュク・シュウ・スク」、訓読みでは「やど・やど(る)・やど(す)」。「宿」には、泊まる・とどまらせる・以前からの・泊まる場所などの意味があります。
「痾」という漢字
字が小さいと見にくいかもしれませんが、「痾」は、やまいだれに「阿」と書きます。読み方は、音読みでは「ア」、訓読みでは「やまい」。長い病気・重い病気・持病・こじれて治りにくい病という意味です。
あまり使うことのない漢字ですが、「痾」を含む熟語には、重い病気を表す「重痾(じゅうあ)」、長患いの療養をすることを指す「養痾(ようあ)」などがあります。
「宿痾」の使い方
「宿痾」は日常的な言い回しでは用いられない言葉なので、文学作品から用例をご紹介します。
堀辰雄『楡の家』より
次の引用は、「宿痾のために亡くなった」という使い方の例です。
ー堀辰雄『楡の家』ー
『楡の家(にれのいえ)』は、堀辰雄による長編小説『菜穂子』の前日譚。この『楡の家』の主人公「私」は、『菜穂子』の主人公・菜穂子の母です。『楡の家』は、発表当初は『物語の女』というタイトルでした。
主人公「私」は、生来のロマネスクな性格で、夫の死後は、小説家の森於菟彦(もりおとひこ)との恋に生きました。娘の菜穂子は、そんな「私」の生き方に反発。『楡の家』では、いつか娘に読んでもらうために書いた日記という形で、「私」と森との交流が綴られていきます。
引用したのは、第二部の冒頭。「私」が森の死を新聞で知ったシーンです。
吉川英治『新書太閤記 〜第十一分冊〜』より
次の引用は、手こずらされた対象を「宿痾の癌(がん)」と喩えている例です。
ー吉川英治『新書太閤記 〜第十一分冊〜』ー
吉川英治による『新書太閤記』は、豊臣秀吉の生涯を描いた長編小説。引用したのは最終巻にあたる第十一分冊に収められている、紀州征伐の場面です。
根来衆(ねごろしゅう)や雑賀衆(さいがしゅう)といった僧兵や、瀬戸内の海賊などの反対勢力がいる紀州の平定には、織田信長ですら手を焼いていたという描写に「宿痾の癌」と比喩が用いられています。
この後に登場する「手術」という言葉は、「宿痾の癌」と対になる表現です。
と、意を決した秀吉であるから、信長さえ持て余した手術ではあったが、いつになく、峻烈(しゅんれつ)な風があった。
「宿痾」の類語
「持病」
「持病」は、宿痾と同じく「完治せず、いつも悩まされる病気」という意味です。「持病の神経痛に苦しむ」のように用いられます。
「持病」のもう一つの意味は「なかなか直らない悪い癖」で、「持病の癇癪(かんしゃく)が出た」のように使われます。こちらの意味は、宿痾にはありません。
「痼疾」「宿疾」「宿病」
宿痾と意味を同じくする言葉には、「痼疾(こしつ)」「宿疾(しゅくしつ)」「宿病(しゅくびょう)」が挙げられます。
「痾」を含む類語
「積痾(せきあ)」「沈痾(ちんあ)」「病痾(びょうあ)」も宿痾と同義の言葉です。「旧痾(きゅうあ)」にも、宿痾と同じく「いつまでも治らない病気」という意味がありますが、「以前にかかった病気」という意味もあります。
「持病の癪」とは
時代劇や落語などで「持病の癪が…」というセリフがよく出てきますね。この場合の「癪(しゃく)」は、胸や腹のあたりに起こる激しい痛みの総称です。胆石症・胃痛・虫垂炎(盲腸)・生理痛など、なんでも「癪」と言います。
「持病の癪」は、原因はともかく、「すごくお腹が痛い」ことを表しています。この場合の持病は宿痾と同義ですが、「宿痾の癪」というセリフは無いようです。