「鞘」とは?
「鞘(さや)」とは、一般的には、刀剣類(槍やなぎなた、脇差なども含む)の、刃の部分を納めて保護しておくための筒状のものを言います。
刃先を腐食から守り、切れ味を保つために保護するだけでなく、それを使ったり携帯したりする人たちの安全を守る役割も持っています。刀室(とうしつ)も、同じ意味の言葉です。
材質には、木製や革製、金属製などがあります。全体が金属製のこともあれば、木製や革製の鞘の一部に、装飾や補強のために金属が使われていることもあります。その他、獣の角や、合成樹脂などが使われる場合もあります。
いろいろな意味で使われる「鞘」
「鞘」は、次のような意味も持っています。
- 筆の穂先や、鉛筆にかぶせて先端を保護するためのキャップ。
- 相場での値段の差や、売値と買値との差。
2の意味では、「売買の仲介をして、そのときに生じた売値と買値との差を利益として取ること」として「鞘を取る」「鞘をかせぐ」「鞘を抜く」などと表現されます。
「鞘」の英語表現
「鞘」の英語表現は以下のとおりです。
- 刀の鞘:sheath、scabbard
- 鉛筆などの鞘:cap
- 売値と買値との差:margin
「鞘」に関連した言葉
元の鞘に収まる
「元の鞘に収まる」は本来のあるべき状態に戻ることを表した慣用句で、とくに仲違いした男女が以前のように仲の良い状態に戻ることを表します。
「収まる」は、「納まる」とも書かれることがあり、また略して「元鞘」、「もとさや」、「元サヤ」と表記されることもあります。
鞘当て
「鞘当て(さやあて)」には以下の意味があります。
- 武士が道ですれ違うときに、刀の鞘がぶつかってしまったところから争いになること。転じて、ささいなことから争いごとが起こること。
- 一人の女性のために、恋敵である二人の男性が争いを起こすこと。「恋の鞘当て」のように使う。
反りが合わない
「反り(そり)が合わない」という言葉も、刀の鞘に関連した言葉です。刀の湾曲の度合い(反り)が、鞘の湾曲の度合いとそろっていないと、刀が鞘にうまく収まりません。
ここから、人間関係で、考え方や性格が違うため、うまくやっていけないようすを表すようになりました。逆に、気が合うことは「反りが合う」と言います。
日本刀の「拵え」と「白鞘」
拵え
時代劇などで、色のついた鞘に入った刀を腰に差している武士を見ることがあるかと思います。
このような鞘は、鍔(つば)、柄(つか)と合わせて「拵え(こしらえ)」と呼ばれるもので、戦闘の際や外出の際に使われていました。漆などが塗られていて、頑丈さと、刀身とのバランスがとれる重さの両方が考えられています。
実用として役に立つともに、美しく装飾され、芸術性も高められています。鞘を作る鞘師、鞘に漆を塗る塗師など、多くの専門的な職人がかかわって、複雑な細工や技巧が施されています。
一方で、拵えは日本刀を長い間保管するのには向きません。日本刀を保管するときには、丁字(ちょうじ)という植物から作られた丁字油を塗り、錆を防がなければならないのですが、拵えに油を塗った日本刀を入れてしまうと、鞘が油を吸って漆が剥げてしまうからです。
白鞘
「拵え」に対して、保管のために使われるのが「白鞘(しらさや)」です。白鞘は「休め鞘(やすめさや)」とも呼ばれ、朴の木(ほおのき)を原料に刀の形に合わせて作られます。白木のままで、表面に漆などは塗られていません。
白鞘の中は湿度や温度が安定しているため、日本刀の保存に向いています。また、お米を練って作ったのりで接着されて作られているので、簡単に分解することができ、中の手入れなども容易です。
任侠映画やアニメなどで、白鞘の日本刀で戦闘する場面を見ることがあるかもしれませんが、本来の目的からは外れた使い方です。