「明暗」の意味
「明暗」は「めいあん」と読み、「明るいことと暗いこと」を指す言葉です。
また、絵画の世界においては、「明暗法」や「陰影法」を指す言葉としても使われています。この場合は、立体感を際立たせるために色彩の濃淡などで明るい部分と暗い部分を区別することを意味します。イタリア語を用いて、キアロスクーロ(chiaroscuro)とも呼ばれています。
「明暗を分ける」とは
「明暗」を使った慣用句といえば、「明暗を分ける」という言葉を思いつく方も多いかもしれません。しかし、この慣用句に二つの意味があることはご存知でしょうか。
一つ目は、勝敗や成否をはっきりと決定づけるきっかけとなるという意味です。二つ目は、二者が対照的に良いほうと悪いほうに分かれるという意味です。かなり似通った意味に感じますが、大きな違いは、二つのものを比較する文脈かどうかというところにあります。例文を見てみましょう。
- 今日の試合では、このときの判断が明暗を分けました。
- 今月発売の新製品の売れ行きは両社明暗を分けた。
一方、2の例文は、A社とB社の新製品の売れ行きは対照的なものだったという意味なので、二つ目の「二者が対照的に良いほうと悪いほうに分かれる」という意味で使われています。どちらの意味も押さえておくと、語彙力が高まりそうですね。
「明暗順応」とは
「明暗」とつく用語には、「明暗順応(めいあんじゅんのう)」という言葉もあります。これは、生物学の用語で明順応と暗順応を合わせた呼び方です。
「明順応」とは、暗い場所から急に明るい場所に入ったときに、はじめはまぶしさを感じますが、次第に馴れて正常に見えるようになる現象のことです。反対に、「暗順応」とは、明るいところから急に暗いところに入ったときに、はじめは見えなかったものが次第に見えるようになる現象のことを指します。
この二つの現象を合わせて「明暗順応」と呼びます。どちらも私たちが日常的に体験している現象ですね。ちなみに、通常は明順応のほうが暗順応よりも速いそうです。身近な現象なので、実験してみるのも面白そうです。
夏目漱石『明暗』とは?絶筆作品だった
さて、「明暗」という言葉をタイトルにした文学作品があるのをご存知でしょうか。作者は、有名な夏目漱石です。夏目漱石『明暗』は、1916(大正5)年に朝日新聞で連載されていた小説です。その冒頭は、以下の一文から始まります。
この津田由雄(つだ・よしお)と彼の妻であるお延(のぶ)を中心として、愛の可能性や利己主義を問い直そうとする作品であると言われています。
このように説明すると堅苦しく感じるかもしれません。しかし実は、冒頭の一文は、津田が持病である痔の診察を受けているシーンなんです。また、津田とお延は、新婚でありながらもどこかぎくしゃくした関係です。このように、堅苦しいというよりも、人間をリアルな目線で描いた作品であるとも言えます。
ただ、『明暗』は作者である夏目漱石が連載途中で亡くなってしまったため、連載188回で未完となっています。
とはいえ、未完ながらも夏目漱石作品の中では最長ですし、夏目漱石の境地を表した作品でもあります。気になる方は、ぜひ読んでみてください。近年、ほかの作家が『明暗』の続きを書く試みもあるようなので、そちらも併せて楽しめそうです。