「弁慶の泣き所」とは?意味や使い方を由来を含めてご紹介

「弁慶の泣き所」は体の一部を表す言葉です。あの弁慶すら泣いて痛がると言われる「弁慶の泣き所」、どこのことだかみなさんはご存じですか?本記事では「弁慶の泣き所」の意味や使い方、なぜ「弁慶の泣き所」を攻撃されると痛いのかなどを説明します。

目次

  1. 「弁慶の泣き所」とは
  2. 「弁慶の泣き所」はなぜ痛い?
  3. 「弁慶の泣き所」の意味
  4. 「弁慶の泣き所」の使い方
  5. 「弁慶の泣き所」の類語
  6. 「弁慶の泣き所」と史実

「弁慶の泣き所」とは

武蔵坊弁慶(むさしぼうべんけい)といえば、源義経(みなもとのよしつね)に仕え武名をあげた、怪力無双の荒法師です。『義経記(ぎけいき)』や『幸若舞(こうわかまい)』などにも登場し、その活躍は伝説化されています。

そんな弁慶ですら攻撃されると泣いて痛がると言われるのが向こう脛(ずね)、通称「弁慶の泣き所」です。

膝(ひざ)からくるぶしまでの間を脛(すね)と言いますが、この脛の前面が向こう脛です。向こう脛には、「弁慶の泣き所」以外にも「むかはぎ」という別名もあります。医学用語で言えば「前脛部(ぜんけいぶ)」ですね。

「弁慶の泣き所」はなぜ痛い?

実は「弁慶の泣き所」には「向こう脛」以外の意味も存在するのですが、それをご説明する前に、まず「なぜ弁慶の泣き所は打たれると痛いのか?」についてお話しさせてください。

弁慶の泣き所は骨が触知できるほど、他の部位より肉が薄くなっています。実際に触ってみて下さい、硬い骨に触れませんか?この骨を脛骨(けいこつ)というのですが、脛骨は筋肉によって守られていないのです。

そして骨の表面にある骨膜(こつまく)には、痛覚受容器が広く分布しています。弁慶の泣き所に受けた衝撃は、筋肉に守られていない脛骨にモロに伝わり、骨膜の痛覚受容器を刺激します。だから弁慶の泣き所を打たれると、ものすごく痛いのです。

「弁慶の泣き所」の意味

さて弁慶は筋骨隆々、怪力無双の人物と言われています。しかし、いかな弁慶でも、筋肉に守られていない部位は鍛えようがありません。

向こう脛は、あの弁慶ですら泣いて痛がる箇所。そこから転じて、弁慶の泣き所は「唯一の弱点・急所」「強者の最も弱いところ」という意味でも使用されています。

また、あまり知られていないのですが、「手の中指の第一関節から先」も弁慶の泣き所と呼ばれます。

これは中指の第一関節を伸ばしたまま第二関節を曲げると、第一関節に力が入らなくなることに由来しています。とはいえ泣いて痛がるような箇所でもないので、この場合は「泣き所=弱点」という解釈が妥当でしょう。

「弁慶の泣き所」の使い方

「弁慶の泣き所」を「手の中指の第一関節から先」の意味で使用することは稀だと思われるので、「向こう脛」と「弱点」に絞って例文を以下に挙げてみます。

  • 弁慶の泣き所をテーブルの角にぶつけた。
  • 彼女は彼の弁慶の泣き所だ。
  • 弁慶の泣き所をつかれ、彼はぐうの音も出ないようだ。
ちなみに「弱点」には「弱み」という意味と「短所・欠点」という意味がありますが、弁慶の泣き所として使えるのは前者だけです。

“攻撃されるとまずい箇所”が弁慶の泣き所なので、「口下手なのが彼の弁慶の泣き所だ」などとするのは誤りです。

「弁慶の泣き所」の類語

「弁慶の泣き所」と似たような意味で使用される言葉に「アキレス腱」があります。「アキレス腱」は足首の後部に位置する、長さ15センチほどの強靭な腱(けん)ですが、この名称の由来となったのがギリシャ神話の英雄アキレウスです。

アキレウスは俊足かつ無双を誇る戦士でしたが、ひとつだけ弱点がありました。アキレウスの母テティスは愛する我が子を不死身にしようと、冥府の川に彼の身を浸したのですが、掴んでいた踵(かかと)の部分だけが水に浸からなかったのです。

後にトロイア戦争に出陣したアキレウスは、弱点である踵を射られ、これが元で命を落としました。この逸話から足首後部の腱が「アキレス腱」と名付けられ、「アキレス腱」は「致命的な弱点」という意味でも使用されるようになりました。

「弁慶の泣き所」と史実

ところで、弁慶には数々の逸話がありますね。京の都で千本目の太刀を奪うべく牛若丸こと源義経に挑み、返り討ちにあって心服した。衣川の戦いでは多勢を相手にたった一人で義経を守り、雨のような矢を受けながら仁王立ちのまま絶命した。

これらのエピソードは、実は義経記を元にした後世の創作です。史実としての弁慶は、鎌倉時代の歴史書『吾妻鏡』の記載に2箇所見られるだけで、しかもその内容も「義経の配下、これこれ」といった、いわゆる名簿に名前があるというだけのもの。

つまり向こう脛を打たれて泣いたというエピソードも、実際には存在しないのです。「弁慶の泣き所」は、「あの弁慶ですら泣くほどの」という誇張を含んだたとえ話。いまごろ弁慶本人は、あの世で憤慨しているかもしれませんね。


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