「平穏」とは
「平穏」とは「静かで穏やかなこと、穏やかで無事なこと」を意味します。
基本的には状況・状態を評価して使う言葉で、通常は人に対して使うことはありません。「平穏な気持ち」とは言いますが、「平穏な人」といった表現は避けたほうがよいでしょう。
「平」は平(たいら)なこと、平たい状態のことを指します。転じて穏やかで、何事もなく安らかなことを意味します。「穏」は静かで落ち着いたさま、安定したさまという意味です。
つまり、同じような意味の漢字を連結して、より意味を強調する構造の二文字熟語になっています。
中国唐代の詩人・杜甫の『秋清(しゅうせい)』には
(中略)
十月江平穏 じゅうがつ、こうへいおんならば
軽舟進所如 けいしゅうすすめてゆくところのままにせん
「秋になり肺の具合もよくなった。(中略)10月、川の水面が平穏になったら、舟を出して気ままに行けるところまで行ってみよう」という意味です。
直接は川の状態について「平穏」と言っているわけですが、政情が安定すれば行動を開始してみようか、ともとれます。
「平穏」の類語・対義語・英語
「平穏」と意味が近い言葉は、日本語・英語ともに多くありますが、対義語はそれほど多くありません。
類語は
「平穏」の類語としては
- 「静か」
- 「平らか」
- 「穏やか」
- 「安らか」
- 「和やか」
- 「平静」
- 「平和」
- 「静穏」
- 「安穏」
- 「安静」
対義語は
「平穏」の対義語としては「不穏」「険悪」が挙げられます。
英語では
- peace:争いがなく平和な状態から、平穏を意味します。peace of mind(心の平穏)といった言い回しがあります。
- calmness:天候や海などで波風がなく穏やかな状態を指しますが、社会・政情に対して使うと平穏となります。
- quietness:うるさい音や動きがなく静かな状態から、平穏となります。
肯定的な意味での「平穏」
「平穏無事(=これといって変わったこともなく、安らかなこと)」という言葉が示すような、何事も大きな変化がなく過ごすのが一番だという考えからすると、「平穏」は肯定的な意味を持ちます。
これを踏まえると
- 海外へ行ったきり、しばらく音信不通だったが、平穏に暮らしているのであれば何よりだ。
- 季節が変わり、かき氷のピークを過ぎてしまえば、このお店は平穏そのものである。
否定的な意味での「平穏」
一方では、何事もないというのはどうも面白みに欠けるとする向きもあるでしょう。そうなると「平穏」は倦むべき退屈な時間にほかなりません。
そうした意味では
- こう長い間、平穏な状態が続くと、体がムズムズしてくるのを感じる。
- 田舎の平穏な生活に浸っていると、波乱の連続だった若いころが懐かしくさえ思えてしまう。
どちらともいえない「平穏」
「平穏死」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?石飛幸三(いしとび・こうぞう)さんが2010年に発表した著書『「平穏死」のすすめ 口から食べられなくなったらどうしますか』の中で「平穏死」について詳しく述べています。
「平穏死」とは、尊厳死・自然死と意味が近い言葉です。医療技術の発展や法令上の問題もあり、病院は延命至上主義だといいます。しかし、高齢者やその家族は、もっと自然な、穏やかな死に方(平穏死)を望んでいるケースが少なくないそうです。
高齢になり体が限界に来ると、徐々に食が細くなり、ついには最期の時を迎えることになります。これに対して過剰なエネルギー摂取・点滴・胃ろうによって延命治療を施すことは、果たして是か非か…。
ネットでは平穏死を容認し、肯定的に受け止める声も数多くあります。ただ、やれる治療があるのならやっておくべきではないか、といった平穏死に否定的な考えを持っている人もいます。簡単に決着がつく議論ではなさそうです。