「居士」とは?
「居士」は「こじ」と読みます。
おそらく多くの方にとっては戒名の最後についている二文字、というイメージでしょう。あるいは「一言居士」を連想したかもしれません。実は「居士」には4つの意味があります。
まず、成人男子の戒名の下につける称号のこと。もちろん仏教の信者の方だけです。カトリックや神道を信仰されていらっしゃた方にはついていません。(詳細後述)
次に、「一言居士」の様に、何かの言葉の下に付く場合。ある性質をもった男性を表しています。「一言居士」なら一言言わねば気が済まない性質のある男性、ですね。
三つ目が代名詞の時。在家の男子で、仏教に帰依した人のことを指します。お坊さん以外で仏教を信じている男性といったところでしょうか。
そして、最後に教養があるけれど仕官していない人。処士と同じく公務員ではない人格者です。
「居士」の由来
ルーツはインド
「居士」は元々古代インドの言葉です。仏教も古代インドで誕生し、日本に伝わったので、とても近い言葉となりますね。
さて、現在のインドは宗教はヒンドゥー教が多数派で、言語はヒンディー語が多く話されています。しかし、古代インドではバラモン教の信者が多く、言葉はサンスクリット語が使われていました。
このバラモン教には生まれで階級を決める身分制度がありました。有名なカースト制度です。4つの身分は、上から「バラモン」「クシャトリア」「ヴァイシャ」「シュードラ」です。それぞれ王族(宗教家)、戦士、商人、被征服民のことです。
このうちの「ヴァイシャ」、商人階級のなかでも豊かで力のある人は「グリハプティ」と呼ばれていたようです。この「グリハプティ」の意味は「家の主」です。
時代劇などでも裕福な商人は使用人から「旦那様」とか「ご主人様」と呼ばれていますので、裕福な商人が家の主と呼ばれるのは納得のいく話です。
そしてこの「グリハプティ」が「居士」の元になった言葉だといわれています。サンスクリット語が起源だったんですね。
中国へ伝わる
この「グリハプティ」はインドから中国へ伝わります。ここ中国で「グリハプティ」が「居士」に変わったといわれています。
「グリハプティ」は元々「家の主」でした。中国ではそれを「家に居る者」捉えたようです。そして「家に居る者」が「居士」となったとされています。
さらに、「居士」は形だけでなく意味も変えることになります。
「居士」は家に居る者。つまり、能力があるにもかかわらず家に居る者。そこから「能力があるのに仕官しない人」を指すようになったそうです。
また、出家をしないで家に居る者、つまり「在家の仏教信者」をも指すようになったとも言われています。
そして日本へ
日本で「居士」には新たな意味が加えられることになります。
まず、鎌倉時代以降、禅宗が発展してきました。栄西の臨済宗や道元の曹洞宗が有名ですね。この禅宗では有力な信者のことを「居士」と呼んでいたそうです。
また、江戸時代以降は、大名などの戒名にも「居士」と付けるようになりました。これが一般化し、現在では庶民も付けるようになったといわれています。
戒名での「居士」
現在「居士」という言葉が最もよくみられるのは戒名でしょう。戒名とは仏教に帰依している人に死後に与えられる名前です。宗派によって法名や法号などともよばれます。
「居士」は戒名の最後、位号と呼ばれる部分につけられます。位号はいくつか種類があり、本来は仏教への貢献具合によって適したものが選ばれることになっています。現在では戒名料の相場ができ、支払った金額で付けられることもあるようです。「居士」がつけられるのは社会的地位が高い人や仏教に高く貢献した人たちです。
男性の場合は
- 大居士
- 居士
- 大禅定
- 禅定門
- 清信士
- 信士
女性では、
- 清大姉
- 大姉(だいし)
- 禅定尼
- 清信女
- 信女
宗派によっては「居士」が戒名に使われないこともあります。