鞭の意味
道具としての鞭
①馬などを打って進ませるためや刑罰として人を打ち据えるのに使う、革または竹・木・籐(ラタン)で作った細長いもの。
②人に物を指し示すときに使う細長いもの。
というように、道具の一種である「棒」のことをさします。
比喩的な表現としての鞭
人を教導するための、師や親などのきびしい言葉や行為のことをさします。「愛の鞭」という言葉は、この意味を用いたものです。
鞭を使った言葉
鞭を使った言葉の歴史は古く、古典にも登場します。
鞭鐙を合わす(むちあぶみをあわす)
馬に乗って速く走らせるために、鞭を打つのに合わせて鐙で馬の腹をけること。
鞭の加持(むちのかじ)
競馬(くらべうま)に勝つように神仏に祈ること。
鞭を揚ぐ(むちをあぐ)
馬を走らせるために鞭を振り上げること。
鞭を用いたことわざ
鞭を比喩的に用いたことわざも多くあります。
飴と鞭
死屍に鞭打つ
死体に鞭を打って生前の恨みを晴らすという意味から、死んだ人の言行を非難することを表すようになりました。「この文章を公開すると死屍に鞭打つことになる」というように用います。さらに意味を強めて「死屍を鞭打つ」という場合もあります。
先鞭(せんべん)を付ける
人より先に馬に鞭を打って戦場に赴き功名を立てようとすることから、人より先に着手することを言います。「先鞭を打つ」は誤りです。「行政改革の先鞭を付ける」「A社に先鞭をつけられる」のように、その先見の明をプラスに評価して使います。
老骨に鞭打つ
「老骨」は年老いた体、「鞭打つ」は励まし、奮い立たせることを表し、老いて心身ともに衰えた自分を励まして、何かのために努力することを言います。
「老骨に鞭打って知事選に出馬することにした」など、高齢の人が自らのことをへりくだっていうときに使います。
鞭を使用した刑罰
鞭(むち)を用いた刑には笞(ち)と杖(じょう)と呼ばれるものがあります。これらは、中国古代からの刑で、五刑、五罪といわれている刑罰の一種です。
五刑(五罪)とは
中国古代の刑罰で、律(古代東アジア諸国の刑法典)に規定された主な刑のことです。唐以降の律では、笞(ち)・杖(じょう)・徒(ず)・流(る)・死(し)の五種の刑をさしました。
笞・杖・徒は各5等、流は遠・中・近の3等、死は絞(こう)・斬(ざん)の2等の計20等級にわけられていました。日本でも律令制でこれにならっており、「日本書紀」天武5年(676)8月条にも死・流・徒についての記述があります。
笞(笞刑、笞罪)
杖(杖刑・杖罪)
杖とは、五刑のうち笞についで軽い刑で、笞と同じく、節を削った笞(杖)で体を打つ刑罰のことです。
杖60回から杖100回まで10回ごと5等級にわけられていました。杖刑に用いる杖は、笞杖よりも一まわり太く、長さ3尺6寸(約106㎝)、手もとの直径4分(約12㎜)、先の直径3分(約9㎜)で、この杖を用いて臀部(でんぶ=尻の部分)を打つことになっていました。
杖刑も笞刑と同様に、日本でも採用されていましたが、懲役刑へ移行しました。
まとめ
道具としての鞭は痛い・怖いなどのイメージがあるかもしれませんが、、比喩表現としての鞭は「愛の鞭」など、人を教え導くための厳しくも愛情にあふれた言動を表すなどの言葉もあります。
自分自身や相手を励まし、奮いたたせ、人生を前向きに進めるような「鞭」をふるっていきたいものですね。