「準ずる」とは
決まり事や前例などがあって、それに沿って物事を決めたり判断したりするときに、「~に準ずる」という言い方をします。ここではまず「準」という文字に注目して、その使われ方を見てみましょう。
「準」を使った熟語には、次のようなものがあります。
- 基準
- 標準
- 水準
- 照準
- 規準
このように「準」の字には、比べたり計ったりするときに元になるモノサシというイメージがありますね。この「準」は、じつは水平面をはかるための道具を指していたのです。
準は「水準器」を意味する
「準」という文字は「みずもり(水盛り)」と読み、もともと今でいう水準器のことを意味していました。この道具は溝を彫った角材や木箱の中に水を張って水平面を出すもので、昔から建物の建築や土木工事に使われていたものです。
「準」の漢字の下にある「十」は、水面を基準にして高さをそろえるという意味。さんずいがついた「隹」は、たまっている水を表しています。どんな建物でも、まずその場所の水平面を出したのちに、土台や構造物の枠組みを作っていきますよね。
ここから「準」は、基本となる「物差し」「基準となるもの」を意味するようになりました。なお、水準器は英語で「level(レベル)」といいます。
視点によって異なる「準」の意味
さきほど、基本となる物差しとしての「準」の熟語として、「基準」や「標準」をあげましたが、「準」にはもうひとつの使われ方があります。
・準優勝、準一級、準社員、準会員、準急
・准教授、准看護師(准も準とほぼ同じ意味)
このように「準」には、正式なものや基準とするものにならっているけれども、一歩及ばないもの(格下、次点の扱い)を表す用法もあります。
「準ずる」は「お手本とする」こと
さて、ここでメインテーマの「準ずる」に戻りましょう。「準ずる」は「準」を動詞化したもので、「何かをお手本とすること」と言いかえると分かりやすいでしょう。そして「準」と同じように、やや異なる意味の複数の使い方があります。
■準ずるの意味
- 何かをお手本とする。( → だからお手本と同じ内容・性質をもつ)
- 何かをお手本とする。( → 似せてはいるが、お手本(本物)にはかなわない)
【1の意味の例文】
- 「日本に住む外国人も、日本の法律に準じて裁かれる。(=日本の法律を適用して)」
【2の意味の例文】
- 「入選に準じた成績を上げた場合も記念品が贈られます。(=入選には届かないが、それに近い成績)」
【1と2の中間的な例文】
- 「前例に準じて、儀式を執り行うこととします。(=前例にならって)」
最後の例はちょっと微妙です。「前例にならって」というのは、すべて前例と同じにするのか、それとも大筋は前例どおりだが細部は異なるのか、どちらとも取れるからです。
あいまいな「準ずる」には要注意
上にあげたように、「準ずる」は、文脈によってニュアンスが異なることがあるので、注意が必要となることもあります。たとえば、
「派遣社員は、正社員の扱い(あるいは就業規則)に準ずる。」
といった文言があった場合、その示す内容に関して、派遣社員と正社員はイコールとみなして問題ないのか、それとも内容的には同じだがどこかに程度の差などがあるのか、これだけでは不明瞭だからです。
このことは、「(まったく)同一」「同等」「同様」という3つの語句のあいだには微妙な違いがあるということと似ています。
「準ずる」それとも「準じる」?
「準じる」というのは、「準ずる」の活用形が江戸時代の後期に変化したものです(サ行変格活用が上一段活用になったもの。「論じる」「講じる」なども同じ)。現在でも「準ずる」「準じる」の両方の表記が使われています。ただし、「準ずる」のほうがもともとあった形ですので、格式ばった文章のときにはこちらが使われる傾向が多いといえます。
「準ずる」まとめ
本来、明確な物差しを意味する「準」に対してどのような立場をとるかによって、動詞「準ずる」のニュアンスが違ってくるというのも、言葉のもつ面白さかもしれませんね。