「退廃的」の意味
「退廃的」(たいはいてき)とは、「道徳や気風などがくずれて、不健全なさま」という意味の言葉です。「退廃」は「頽廃」とも書き、物事が衰(おとろ)え廃(すた)れることを言います。
盛者必衰(しょうじゃひっすい)の金言通り、あらゆる物事は隆盛するばかりではなく、いつかはその勢いが衰え、破滅に向かいます。人間が持つ道徳観や倫理観なども同様に、厳しい批判にさらされなければ、いずれは形骸化し、やがて不健全化していきます。
「退廃的」とは、物事のあるべき気風、人々の良識・倫理、世相に漂う雰囲気などがくずれ、砂漠の廃墟のように荒れ果てて物寂しくなっているさまを形容する言葉です。
「退廃的」の使い方
「退廃的」は、例えば「退廃的な生活」や「退廃的な雰囲気」などのかたちで、その様子が非道徳的で神聖ではない、褒められたものではなく、生産的でもなく建設的でもなく、無目的であるか、または破滅的・虚無的であるさまを指して使います。
そのため、日常世界で「退廃的」と聞いたら、救いようのない、未来がない、ただ終わり(死や、物や制度の崩壊など)に向かっていくだけの状態を表すでしょう。
しかし、芸術や思想などの分野では、「退廃的」は必ずしもネガティブなワードではありません。道徳が堕落し、表面的な価値観や、社会的な規範が失われていくことにより、そこには終末論的な美や、耽美的な快楽が立ち現れることがあるのです。
「美の表現」としての退廃的
例えば、廃墟・遺構などを見ると、在りし日の姿や時の流れなどが想像され、切なく、不気味で、悲観的ながらも魅力的に感じるという方もいるでしょう。人によっては通じにくいかもしれませんが、これが「退廃的」という感覚です。
文学や芸術の世界では、こうした感覚を突き詰め、「既存概念への懐疑」や「虚無」や「終末」をモチーフとして美を追求する潮流も存在し、「退廃主義」や「退廃文学」と呼ばれています(英語名で「デカダン主義」や「デカダンス」とも)。
人はいずれ死にますし、すべての物は不変ではありません。栄えているもの、今ここにあるものも必ず衰え失われていきます。だからこそそれを美しく感じる、と考えれば、退廃的傾向が美の表現たりうることもうなずけるのではないでしょうか。
例文
- かつて栄華を極めた温泉街は、バブル崩壊後、放棄されたホテルばかりの退廃的な空気を醸し出している。
- あのメーカーの最新ゲームは、核戦争後、文明が崩壊したあとの退廃的な世界観を売りにしている。
- 大学受験に落ち、彼女にも愛想をつかされた彼は、毎日風俗に通うだけの退廃的な生活を送っていた。
- 世紀末には、さまざまな画家の間で「世紀末芸術」とも呼ばれる退廃的な画風が流行した。
「退廃的」の英語表現
「退廃的」を英語で言いたい場合、「decadence」がもっとも一般的で、日本語でも「デカダンス」とカタカナ表記で使われることがあります。
フランス語「décadent」を由来とし、フランス語では最後の子音を発音しないため、日本語でもそれを受けて「デカダン派」や「デカダン主義」と最後の「ス」を省いて使われることもあります。
他に「corruption」(堕落)や「lapse」(下落、転落)といった単語でも良いのですが、道徳・文明・芸術などについて「退廃」と言う場合は、「decadence」を基本とします。
例文
- The city is just getting more and more deserted and decadent these days.(ここ最近、街はさびれていくばかりで、退廃的な雰囲気だ)
- Oscar Wilde is sometimes spoken of as the standard-bearer of decadence in our time.(オスカー・ワイルドは、現代において退廃主義の旗手として語られることがある)