「慣れる」と「馴れる」の字義
「慣れる」と「馴れる」。どちらも「なれる」ですが、その違いを知るために、まずそれぞれの漢字の意味から見ていきましょう。
「慣」の字義
「慣れる」の「慣」は、音読み「カン」、訓読み「な-れる。な-らす。ならわし」と読み、①なれる、ならす、②ならわし、しきたりといった意味があります。①の意味では、慣用句、慣性の法則など、②の意味では、習慣、慣習、慣例といった使い方をします。
「慣」は、こころの働きをあらわす「忄(りっしんべん)」に、つらぬいて変化しないという「貫」がついて、一貫して変わらない心持を意味しています。用例を見てもわかるように、日常的によく使う漢字の一つです。
「馴」の字義
「馴れる」の「馴」は、水が川筋に沿って流れるように、馬が従順に従うことを表しています。音読み「ジュン。シュン。クン」、訓読み「なれ-る。なら-す。よ-い。おし-え」と読み、①なれる、ならす、なつく、 ②おとなしい、従順な、すなお、よいなどの意味があります。
①の意味では、馴化(じゅんか=順化:気候や環境の異なるところへ移された生物が、それに適するような性質になること)、②の意味では、馴行(じゅんこう:すなおな行動)などで使われます。
このような用例を見ても「馴」は、なじみが薄い漢字ないかもしれません。しかし、この「なじみ」を漢字で書くと「馴染み」。「馴染みの店」「幼馴染み」などの言葉に使われてます。
「慣れる」と「馴れる」の違い
すでに見てきたように、「慣」は、長い時間をかけて繰り返してきた習慣や慣例などに使われています。つまり、「慣れる」は経験を積み重ねて身についたことに対して用いられる言葉です。
一方、「馴れる」は、馬(動物)が(人に)従うという意味が原義でしたが、やがて、人に対しても「なじむ、なつく」に近い意味合いで使われるように変化してきたものです。
このように「慣れる」は、経験に基づく物事について使い、「馴れる」は、人や動物が相手に馴染むときに使う言葉という違いがあります。
「慣れる」と「馴れる」の使い方
「慣れる」
- 初めは教師も生徒も戸惑っていたが、最近ようやくオンライン授業に慣れてきた。
- 都会から地方に移住して、土地の慣習に慣れるように努力してきたかいがあり、地元の人たちともうまく付き合えるようになった。
- 座禅を始めた頃は、足が痛くて仕方がなかったが、もう慣れてしまった。
「馴れる」
- 野良猫を拾ってきたが、人間に対する警戒心が強く、馴れるまでに時間がかかった。
- スズメは人に馴れないというけど、知り合いで上手に餌付けをした人がいる。
- 新しい部署の上司は苦手なタイプだったが、最近ようやく馴れてきた。
※「慣れる」は広く使われる傾向があり、これらの例文の「馴れる」は「慣れる」と表記しても通用します。人や動物が相手に「馴れ」るのは、その相手に経験的に「慣れ」た結果であるとも解釈できますね。
「慣れる」「馴れる」以外の「なれる」
「なれる」という言葉には、「慣れる」「馴れる」以外にも漢字表記があります。それは、「狎れる」と「熟れる」です。
「狎れる」は、なれ親しむ、軽んじる、てなずけるという意味の「狎(コウ)」が使われており、親しみすぎて礼を失したり、なれなれしくなることです。
一方、「熟れる」は、「うれる」とも読み、果物などが熟(じゅく)して柔らかくなるところから、熟成して味がよくなるという意味です。
「狎れる」の使い方
「狎れる」は、「親しき仲にも礼儀あり」という言葉があるように、礼儀を欠いたなれなれしい態度などに使う言葉ですが、あまり使われることはありません。
【例文】
- 専務が大学の先輩ということに狎れて、職場で軽い調子で話しかけたら、「公私のけじめをつけろ」と怒られてしまった。
- あの男は、相手が女性とみるとすぐに狎れた態度をとるので、まわりの女性から嫌われている。
「熟れる」の使い方
「熟れる(なれる)」という言葉は聞きなれない人が多いかもしれません。使用例の一つに「熟れ鮨(なれずし)」があります。現在、寿司と言えば、酢飯を使って作りますが、元来は、魚を米飯と塩で発酵させた熟れ鮨のことを指しました。
現在は、日本の各地に魚だけでなく、ナスやかぶらなどの野菜をつかった「熟れ鮨」があります。デパートの物産展や旅行先で見かけたことがある人も多いのではないでしょうか。
【例文】
- 祖母から受けついたぬか床はよく熟れていて、とてもおいしいぬか漬けができる。
- 琵琶湖周辺の鮒(ふな)ずしは、熟れ鮨の代表だが、癖が強く、人によって好き嫌いがはっきり分かれる食べ物だ。