「親しき仲にも礼儀あり」とは
「親しき仲にも礼儀あり」の直接的な意味は「本当に親しい間柄であっても、最低限の礼儀は守るべきである」です。もう少し解釈を加えると「べたべたの近すぎる人間関係になってしまうと、かえって不和の元となりがちである。一定の節度をわきまえておかないと、結果的に人間関係を崩すことにもなる」ということになります。
現在の「親しき仲」とは、親友、家族、チーム(仲間)、師弟などを想定するとよいでしょう。友達だから、親子だからといっても触れてはいけない部分は必ずあるはずで、土足で踏み込むような行為・言動は慎みたいものです。
「親しき仲にも礼儀あり」の使い方
- あの髪型は彼女にとってすごくコンプレックスになっているかもしれないし、あまり詳しく聞かないほうがよさそうだ。親しき仲にも礼儀ありと言うから。
- 親しき仲にも礼儀ありだ。勝手に俺のケータイを覗くなんて許せない!
- 言いたがらない過去について、無理に追及することはないよ。親しき仲にも礼儀ありだしね。
「親しき仲にも礼儀あり」の由来
一説によると、由来は中国の朱子学にあると言われています。孔子の『論語』の一節に、近い考え方を示した記述があります。
有子曰く、禮(礼)の用は和を貴しと為す。先王(せんのう)の道も、斯(これ)を美(よし)と為す。小大之に由(よ)るも、行はれざる所あり。和を知りて和して禮を以て之を節せざれば、亦(また)行はるべからざるなり。
ざっくり言うと、和があっても礼がなくては秩序は保てないよ、ということのようです。
范氏(はんし)の注釈によると「凡(およ)そ禮の體(たい)は、敬(けい)を主とす」とあります。相手を敬う心こそが礼の大事な意義であるとしている点は、「親しき仲にも礼儀あり」に通じるものだと言えそうです。
言い回しとしてはだいぶ遠いのが難点で、直接の語源とするかどうかは難しいところです。とはいえ、日本では江戸時代に書かれたことわざ辞典に「したしき中に礼有り」についての記述があり、少なくともこの頃には一般に定着したことわざだったようです。
「親しき仲にも礼儀あり」と同じ意味の言葉
「親しき仲にも礼儀あり」と同じ意味を持つ言葉が、ほかにも多数存在します。似ている言い回しを中心に、いくつか挙げてみました。
- 親しき仲に礼あり
- 近しき仲に礼儀あり
- 親しき仲にも垣(かき)をせよ
- 思う仲に垣を結え(ゆえ)
- 良い仲にも傘を脱げ
- 心安きは不和の元
世界各国で「親しき仲にも礼儀あり」
日本以外の国でも「親しき仲にも礼儀あり」と同じ意味を持つことわざがあるので、紹介します。
テントは離し、心は近づけよ(アルジェリアのトゥアレグ族)
トゥアレグ族は基本的に遊牧民なので、テントは移動式の住居を意味します。テントを設置する際には、一定の距離を保ちましょうとしています。
隣人を愛せ、だが垣根は取り払うな(ヨーロッパ各地)
英語では「Love your neighbor, yet pull not down your fence.」あるいは「A hedge between keeps friendship green.」と言います。移動できるテントと違って、こちらは地面に建てた一軒家を想定しています。近頃のアパート・マンション住まいはどうするんだ?というツッコミはなしにしましょう。古いことわざですから。
隣人を愛せ、だが境の壁は取り払うな(インド・ヒンディー語)
ヨーロッパと近い表現なのが興味深いですが、こちらは垣根が壁となっています。
扉は閉ざしておいて、隣人を信用せよ(アラブ)
信用はしていても家の中には入れません、ということでしょうか。礼儀の捉え方も多様なようです。
世界中、いずれに国においても、人間関係を良好に保つのは大切だし、その時はお互いの間に距離を持つことが必要だということを示しています。