「然り」の意味や読み方の由来とは?
「然り」は、そうである、そのとおりだという意味を表すラ行変格活用の動詞です。口語動詞にはラ行変格活用の動詞が存在しないことと、言い切りの形が「ウ段」ではないことから、文語動詞であることが分かります。
この動詞の「しかり」という読み方は、「しかあり」が転じてできたというのが定説です。「しか」というのは、直前に述べたことを承(う)けて「そう」「そのように」を表す「然(しか)」のことです。
「あり」は、「~のような状態である」という意味を表す補助動詞です。このように「然り」の意味を覚える際は、その成り立ちを理解しておくと忘れにくくなるでしょう。
「然り」のもうひとつの読み方とは?
「然り」には、「しかり」とは別に「さり」という読み方があります。こちらも、「そのように」を表す「さ」と「あり」を組み合わせた「さあり」から転じてできたというのが一般的な見方です。
現代でも「さりとて(=そうはいっても)」や「されども(=そうではあるが)」のような言い回しの中で「さり」を見かけることがあります。
「然り」の使い方
- 新商品の開発をライバル社に先んじることができれば優位に立てるが、逆もまた然りだということも肝に銘じておくべきだろう。
- 未然とは「いまだ然らず」と訓読し、「まだそうなっていない」という意味を表す言葉なのでよく覚えておくといいのではないか。
- そのような重要なポストには然るべき人材をきちんと配置しておかないと、会社の命運を左右しかねない事態を招いてしまいます。
これらの例文に登場するいずれの「然り」も「そうである」という言葉で置き換えることができます。しかしながら、最後の例文だけは「そうであるべき人材」という表現のままではやや意味が分かりづらいのもまた事実です。
この場合の「そうであるべき」は、重要なポストに配置しておいても職務の遂行に必要な能力を十分に備えている人物ということになります。これをもっと手短に表現したものが「適当な」や「ふさわしい」という言葉です。
「然り」を含む慣用表現とは?
- 然るべき…そうするのが当然だ。適当な、ふさわしい。
- 然るべく…適当に、いいように。または、裁判官の判断に従うという意思を示す。
- 然るが故に…そうであるために。それゆえに。
- 然(さ)るからに…そうだから。そうこうするうちに。
- 然(さ)るまじ…そうなるべきでない。取るに足らない。
これらのうち現代においても比較的よく用いられるのは上の三つ目までです。残りの二つに関しては、主に古典の世界で用いられています。
「然り」を英語で表すと?
「然り」の意味を含む英語表現で押さえておきたいのが「然るべき」と「逆もまた然り」の二つです。
「然るべき」の英語表現
- proper
- appropriate
- right
これらは、いずれも「適切な」「正しい」という原義を持つ言葉です。それが、TPOに応じて「然るべき」と訳されることもあります。
【例文】
- Do you think this is a proper place?(あなたは、ここが然るべき場所だとお考えですか。)
- We should take appropriate measures.(我々は、然るべき手段を取るべきだ。)
- They did the wrong thing for the right reason.(理由は然るべきものだったが、彼らは間違ったことをした。)
「逆もまた然り」の英語表現
- The opposite is equally true.
- vice versa
これら二つのうち、最初の表現に出てくる「true」は命題でいうところの「真」にあたるものです。つまり、この分を直訳すると「逆も等しく真である」となります。
また、二つめの「vice versa」はラテン語由来の言葉です。こちらは簡略的に「v.v.」と表記されることもあります。