「なぞらえる」とは?
「なぞらえる」は、ア行下一段活用の動詞です。また、古語「なぞらへる」は、ハ行下二段活用の動詞となります。いずれも、以下の2つの意味を持つ言葉です。
- ある物事を類似のものと比較して、仮にそれとみなす。擬する。なずらえる。
- まねて作る。にせる。
元々あるものか、新たに作るものか、という違いはありますが、「他のものと似ている部分を見出す」という部分は共通していると言えますね。
「なぞらえる」の使い方
【例文】
- 松尾芭蕉の『奥の細道』しかり、人生を旅になぞらえて語っている文学作品には枚挙にいとまがない。
- 一代で成功をおさめた実業家が、晩年に私費を投じて地元に作った美術館は、若かりし頃に彼が憧れたルーブル美術館になぞらえた造りになっている。
1つ目の例文では、「人生」を「旅」と比較してそれに擬するという意味で「なぞらえる」という言葉を使っています。
2つ目の例文の「なぞらえる」は、「似せた」と読みかえることが可能です。類似点を探すのではなく、「似たもの」を作っているということになりますね。
「なぞらえる」の漢字表記
「なぞらえる」は、ひらがなで表記されることが多い言葉です。漢字で書く場合は「準える」が一般的なようですが、他にもいくつかの漢字が当てられます。
「準える」
「準える」の「準」という漢字は、「ジュン・シュン・セツ」という音読みと、「なぞら-える」という訓読みを持ちます。以下の6つの意味を持つ漢字です。
- みずもり。水平をはかる器具。
- めやす。のり。法則。
- なぞらえる。よりどころにする。
- そなえる。
- そのものに次ぐ位。
- はなすじ。はなばしら。
当然ながら、「なぞらえる」と読むときには3つ目の意味での使用となります。この意味での熟語の代表例は、「準拠」「準用」などです。
最後の意味の、「はなすじ・はなばしら」が異彩を放っていますね。この意味で「準」が用いられる熟語としては、「隆準(りゅうせつ)」が挙げられます。「鼻柱の高いこと、高い鼻」を意味する言葉です。
「准える」
「准える」も、「なぞらえる」と読みます。「准」の字はもともとは「準」の俗字だったので、当然と言えば当然ですね。
「准」という漢字の音読みは「ジュン・シュン」、訓読みは「なぞら-える・ゆる-す」です。以下の3つの意味を持ちます。
- なぞらえる。そのものに次ぐ。
- ゆるす。
- よる。(基準とする)
「そのものに次ぐ」という意味で使う場合については、「准尉」「准将」といった軍隊の階級を思い浮かべるとわかりやすいでしょう。「ゆるす」の意味では「批准」、「よる」の意味では「准拠(準拠)」などが例として挙げられます。
「擬える」
「擬」の字も、「なぞら-える」という訓読みを持ちます。音読みは「ギ」、他の訓読みは「はか-る・まが-い・もどき」です。
「擬」という漢字は、以下のような意味を持ちます。
- なぞらえる。まねる。にる。にせる。
- はかる。おしはかる。
- まがい。もどき。にせ。
「模擬」「擬音」といった熟語を思い浮かべると、1の意味の「なぞらえる」は、イメージがしやすいですね。
「擬」の字が2の意味で用いられている熟語としては「擬議」、3の意味ならば「擬餌(ぎじ)」などがあります。
「僭える」
「僭える」もまた、「なぞらえる」と読まれます。「僭」という漢字の音読みは「セン」、訓読みは「おご-る・なぞらえ-る」です。
この漢字は、「おごる。まねる。なぞらえる。身分不相応におごりたかぶる」という意味を持ちます。代表的な熟語としては、「僭越(せんえつ)」「僭主(せんしゅ)」などでしょうか。少しネガティブな印象を受ける漢字です。