「殊更」とは
「殊更(ことさら)」は、「故」とも表記しますが、通常は「殊更」か、ひらがなで表記されることが多い言葉です。「名詞・形容動詞」と「副詞」としての役割があり、それぞれで意味が異なります。
【名詞・形容動詞として】
何か考えるところがあってわざとそのようにすることや改めてすること、わざとする、特別。
【副詞として】
わざわざ、とくに、わざと。
「殊」の字義
「殊」は、音読みが「シュ」、訓読みが「こと」と読み、ことにする、ことなる、ことに、とりわけといった意味があります。「シュ」と読む場合、特殊とか殊勲などといった熟語を作ります。
「更」の字義
「更」は、音読みが「コウ」、訓読みが「さら。ふけ-る。ふか-す」と読み、以下のような意味があります。
- かわる。かえる。あらためる。いれかわる:(更衣・更新・変更など)
- さらに。そのうえ。
- 深まる、ふける。夜が遅くなる:(夜更け)
- 日没から夜明けまでを五等分した時間の単位:(初更・二更・三更・四更・五更)
「殊更」においては、2の意味で使われています。それぞれの字義を組み合わせて、「殊更」の意味が成り立っています。
「殊更」の使い方
例文:名詞・形容動詞として
- 両親の反対を押し切って結婚したためか、母は妻に対して殊更冷たい態度をとる。
- 人通りの多いところで転んだ彼女は、恥ずかしさを繕うためか殊更にすました表情で歩き出した。
- 彼は素人に対して、殊更に専門用語を並べ立てて説明するのだが、自分が専門家だということを誇示したいのだろうか。
例文:副詞として
- 今年は梅雨明けが殊更遅くて、もう8月だというのにとても蒸し暑い。
- 私はもう大人なんだから、殊更お母さんがついてくる必要はないよ。
- 彼女は、周りに人がいると殊更女らしさを強調する癖がある。
「殊更」の類語
「格別」
「格別(かくべつ)」にも、名詞・形容動詞と副詞としての役割があります。名詞・形容動詞では、普段とは程度や内容が違っていること、特別という意味と、別々であるという意味があります。ただ、現代において後者の意味で使うときは、「各別」を使っています。
一方、副詞では、とりたてて、ともかく、~とは別にしてといったことを表します。どちらの意味でも、「殊更」とかなり近いニュアンスですね。
【例文】
- 転職してキャリアアップを図ったが、仕事は前の会社と格別変わり映えのしない退屈な毎日だ。
- あの店はグルメサイトで評価が高かったけど、格別おいしいということはなかったなあ。
「尚更/猶更」
「尚更/猶更(なおさら)」は、物事の程度が前よりも、あるいは他よりもいっそう進むこと、さらにといった意味の副詞です。
「殊更」は、わざと(あるいは特別に)付け加えてなにかをするという意図がありますが、「尚更」は、周りの条件などが加わってさらにというニュアンスがあります。
【例文】
- まだ熱があるのにジョギングなんてしてたら、尚更風邪がひどくなるよ。
- あいつは天邪鬼(あまのじゃく)だから、だめだと言われると、尚更やろうとするんだよ。
「分けても/別けても」
「分けても/別けても」は、中でも特に、とりわけといった意味で、「わけて」を強調した副詞です。「わけて」は「わける」の連用形に助詞の「て」がついたもので、特別に取り分けること、ことさらという意味です。特別に扱うという点で「殊更」の類語と言えるでしょう。
【例文】
- 日本は四季折々の変化があり、どの季節もいいものだが、分けても穏やかな佇まいの秋が好きだ。
- うちの猫が一番かわいいと思っているが、分けても片方の目が青いオッドアイがかわいらしさを倍増している。