「しっぽり」とは
「しっぽり」とは、雨がしとしとと静かに降る様子やしっとりと雨に濡れる様子を表す言葉です。「しとしと」は雨が静かに降る様子を、「しっとり」は少し湿った感じや静かで落ち着いた様子を表します。
こういった意味から「しっぽり」は、濡れたり湿ったりした人や雰囲気の比喩として、ほのぼのとした情愛が感じられる静かで落ち着いた様子や、男女の愛情が繊細な様子という意味も持っています。
「しっぽり」の使い方
「しっぽり」は、静かで穏やかな情感や物静かな風景、ロマンチックな雰囲気を表現するときに使われています。
【例文】
- 雨上がりのカフェのテラスで、恋人同士がしっぽりと語り合う姿はまるで詩のようだ。
- 春雨にしっぽりと濡れた彼女の髪が、雨上がりの日の光に美しく輝いていた。
- 朝もやの中にしっぽりと包まれた木々の緑が目にやさしい。
- 温泉宿でこたつに入って妻と差し向い、しっぽりと雪見酒を楽しんだ。
「しっぽり」の語源
「しっぽり」は、濡れているさま・静かなさま・男女間の機微(きび:微妙なこころの動き)を表します。由来としては複数の説がありますが、はっきりしたことはわかっていません。
「京都弁(京言葉)」
「しっぽり」の由来の一つとして考えられているのは、「京都弁(京都言葉)」です。京都弁で「しっぽり」は上品なさまを意味します。しかし、現代の京都で「しっぽり」という言葉を「上品」という意味で使っている人はほとんど見られません。
「江戸時代の言葉」
もう一つの説として、江戸時代の大蔵流狂言の演目で夫婦喧嘩(ふうふげんか)を扱った『右近左近(おこさこ)』に「ふたりともに鼻の上にしっぽりと汗をかくものか」というセリフがあります。この「しっぽり」は濡れているという意味で使われています。
また、江戸時代の俳諧(はいかい)集『毛吹草(けふきぐさ)』に「雨の日ぞしっほりとなけ時鳥(ほととぎす)」という句がありますが、この「しっほり」は「しっぽり」のことで、情がこもって静かで落ち着いた様子を表す言葉として使われています。
ほかに男女間の情愛を表す言葉として使われている例もありますが、いずれも江戸時代のものです。
「しっぽり」の類語
「しっとり」
「しっとり」は、最初に「しっぽり」を説明するところでも触れましたが、少し湿った感じや落ち着いた雰囲気で、穏やか様子を表す言葉です。「しっぽり」とよく似たニュアンスがある言葉です。
【例文】
- シャワーの後、軽くドライヤーをかけた後のしっとりとした髪の手触りが好きだ。
- 彼女のしっとりとした物腰は、とても10代の女の子とは思えない大人の雰囲気がある。
「しんみり」
「しんみり」は、静かで落ち着いた雰囲気を表す言葉ですが、こころが沈んで、寂しい雰囲気を表す言葉でもあります。最初の意味で「しっぽり」の類語と言えますが、ほのぼのとした感じは含んでいません。
【例文】
- 通夜の席で、亡くなった友人の思い出話をしているうちにみんなしんみりとして、静かに涙を流していた。
- いつも元気で明るい娘が、なぜか今日はしんみりとして寂しそうだった。
「しみじみ」
「しみじみ」は、こころに深くしみこむさまや静かで落ち着いた様子、じっと見つめることを表す言葉です。静かで落ち着いているところが「しっぽり」の類語と言えるでしょう。
「しみじみ」は、なにか考え事をしたり、昔のことを思い出したりして、それを味わったり懐かしんだりするようなときによく使われる言葉です。
【例文】
- 日頃の不規則・不摂生(ふせっせい)な生活で体を壊して入院し、健康のありがたさをしみじみと感じた。
- 帰宅して、なにげなく鏡に映ったくたびれた顔をしみじみと見て、「もう歳だな」とつぶやいていた。
- 妻と昔の写真を見ながら、しみじみと思い出を語り合った。
「ウェット」
ここまでは静かな心情を表現する副詞を紹介しましたが、カタカナ語を一つ紹介します。「ウェット(wet)」は、濡れていること、湿っていることを意味する英語ですが、情にもろくて感じやすいというセンチメンタル(sentimental)と同じ意味でも使われることがあります。
「しっぽり」からは離れているようですが、2番目の例文のように使うこともできるので類語と言ってもいいでしょう。
【例文】
- 彼女はウェットな性格だから、悲しい映画や物語を見たり読んだりしたら必ず涙ぐんでいる。
- あのカップルは、いつもほのぼのとしたウェットな(しっぽりした)雰囲気でいい感じだね。