「牧歌的」とは
「牧歌的」とは、「牧歌が聞こえてくるような素朴で叙情豊かな様子や雰囲気」を表す形容動詞です。緩やかに時間が流れる感覚、自然豊かな情景、心がほっとするような雰囲気といったものを表現することができます。
「牧歌」は、牧童(ぼくどう:牧場で家畜の世話をする人)が歌う歌や、「パストラル」のことです。「パストラル」については、以下で説明します。
「パストラル」とは
「パストラル(pastoral)」とは、牧童・羊飼い・農民などの生活や田園風景などの純朴な情景をうたった詩や歌のことで、田園詩と訳されています。
「パストラル」の発祥は古く、ギリシアやローマの詩人たちによって「理想郷アルカディア」をうたったことに始まりました。一時衰退しましたが、ルネサンス期に復活し、その後、ゲーテやミルトン、シェリーなどヨーロッパの詩人たちの作品があります。
音楽の分野では、「マドリガル(牧歌的叙情短詩)」と呼ばれる舞台作品や持続低音を使ったのどかな牧歌的雰囲気を感じさせる旋律の音楽のことを指し、後者ではバッハやヘンデルの曲が知られています。
「牧歌的」の使い方
「牧歌的」は、「のどか」と言い換えることもできるでしょう。田舎の素朴な雰囲気を、ポジティブなニュアンスで表しています。
例文
- 定年後は、田舎に住んで晴耕雨読、牧歌的な生活をしたい。
- スイスの山岳高原地方の牧歌的な風景にとてもあこがれる。
- 山村留学した時に見た牧場の牛を追う光景は、とても牧歌的で穏やかな気分を感じた。
- 都会のカフェで流れるBGMの牧歌的なメロディに日々のストレスが癒される。
- 彼は落ち着きがあり、穏やかな言葉遣いをする牧歌的な雰囲気の男性だ。
- この展覧会では、西洋の農村を描いた牧歌的な絵画がたくさん展示されている。
「牧歌的」の類語
「鄙びる」
「鄙びる(ひなびる)」とは、「田舎らしい感じがする・雰囲気がある」という意味を持っています。「鄙(ひな)」は、都会から離れた場所、田舎のことです。「田舎らしい」ところが「牧歌的」と似ています。
【例文】
- 今度旅行へ行くなら、鄙びて風情のある温泉旅館に泊まりたい。
- 大人になって故郷へ帰ると、鄙びた雰囲気も良いものだと思う。
「郷土色豊か」
「郷土色豊か」とは、「特定の地方の自然や人情、風俗などの特色が十分にある」ということです。「郷土色」は、「地方色」「ローカルカラー」とも言います。のどかな田園風景が広がる地方であれば、「牧歌的」に通じたものが感じられるでしょう。
【例文】
- 今回のファッションショーは、日本各地の郷土色豊かな民芸衣装を取り入れたものだった。
- 旅館の朝食バイキングは、地産地消型の郷土色豊かな食材がたくさんあり、とてもおいしかった。
「心和む」
「心和む(こころなごむ)」とは、「気持ちが穏やかになる。心がゆったりした気分になる」ことを表します。「心が解きほぐされるような」感じが「牧歌的」と似ていますね。
【例文】
- 日々の忙しさに紛れて空を見上げることなど久しくなかったが、こんなに美しい月が心和むものだとは思いもしなかった。
- 一人山道を歩いていると道端に佇む仏様の笑顔に心和み、疲れを忘れた。
「牧歌的」の反対に近い言葉
「都会的」
「都会的」とは、「忙しい。スピーディ。洗練された」などの意味合いを持つ言葉です。「牧歌的」が想像させる「田舎」や「田園風景」とは対照的な印象を受けるでしょう。
【例文】
- 彼女のファッションは都会的でとても華やかだ。
- この間旅行した地方都市は、田舎とは思えない都会的な雰囲気にあふれていて驚いた。
「慌ただしい」
「慌ただしい(あわただしい)」とは、「状況の変化が急で安定しないさま。落ち着かないさま」を意味します。上記の「都会的」と、イメージに共通する部分があるかもしれません。「牧歌的」とは正反対ですね。
【例文】
- 新型ウイルスの世界的な蔓延で、毎日、その状況が刻々と慌ただしく報じられている。
- 慌ただしい足音を立てて店に飛び込んできた男を見て、何事かと皆が振り返った。