「マブイ」とは?
「マブイ」とは、1980年代に若者たちが‘女性のルックス‘を形容するのに使っていた言葉で、「美しい」「美人である」という意味を持ちます。今の若い世代にはほとんど馴染みがないかと思いますが、「イケてる」や「ぐうかわ」などとほぼ同義です。
当時の若者は、アイドル的な「見た目のかわいらしさ」から「独特の色気」や「スタイルのカッコ良さ」までも含めて、女性の魅力を「マブイ」の一言で言い表していました。
いわゆる若者言葉ではありますが、広く認知はされたものの使用者は限られたという点に注意が必要です。「マブイ」は一部のやんちゃな若者が使っていた‘ヤンキー語‘に属します。
もう1つの「マブイ」
沖縄の方言で、生きている人の霊魂のことを「マブイ」または「マブヤー」といいます。1人の身体に複数の「マブイ」が宿っており、それらが順調に機能することで健康的な日常が送れるというのが、沖縄地方における古くからの言い伝えです。
もし大きな驚きやショックによって「マブイ」を落とすことがあれば、早めにそれらを取り戻さなければ不運が続くとも言われています。そのため「マブイ」を身体に戻す儀式も行われており、「マブイグミ(魂込め)」と呼ばれています。
「マブイ」を使った例文
- 今度の担任はまじでマブイから、学校に行くのが楽しみだ。
- お前の姉ちゃんは、いつ見てもマブイよなぁ。
- バイト先の超マブイ先輩に、頑張っていいところを見せないと。
「マブイ」の語源
「マブイ」は、名詞あるいは形容動詞の「まぶ」が形容詞化したものです。「まぶ」とは芝居仲間や的屋(てきや)、あるいは盗人同士の陰語として、次のような意味で使われていました。
- 仕事などが、うまくいくこと。上々(じょうじょう)であること。上首尾。好都合。
- 勝れていること。良いこと。美しいこと。
- 真実であること。本物であること。
この中で「美しい」という意味が残り、ヤンキー語として使われるようになったと考えられています。
ちなみに、「マブダチ」というヤンキー語の語源も「まぶ」であるとされています。「マブダチ」とは本当の友達、親友などの意。この場合の「まぶ」は「本物であること」の意味です。
「マブイ」の歴史
「マブイ」という言葉が広く認知されたのが1980年代であったことから、その頃に生まれた造語と思い込んでいる人もいるかと思います。しかし実はこの言葉の歴史は古く、江戸時代にはすでに存在していました。
江戸時代の戯作者・式亭三馬は滑稽本『浮世床』の中で、女性の容貌が美しいことを次のように表現しています。
江戸~昭和と流行りの顔のタイプは変わっても、「いい女」を言い表す言葉として「マブイ」が使われていた点は共通していた、ということです。
世間への広がりから死語へ
「マブイ」という言葉が世に広く知られるようになったのは、1980年に入ってからのことです。そのきっかけは映画のセリフや当時流行った楽曲の歌詞に使用されたこと、そして‘ツッパリ(当時のヤンキー)ブーム‘でした。
1970年代には深作欣二監督の任侠映画『仁義なき戦い』がシリーズ化され人気を博しました。その第二部「広島死闘篇」の中に「ワシらうまいもん食うての、マブいスケ抱く、そのために生まれてきとんじゃないの」というセリフがあります。
また1980年に入ると、ツッパリを模したロックバンドや、ヤンキー口調の楽曲が注目を浴びました。横浜銀蝿(よこはまぎんばえ)やアラジンのヒット曲には、「マブイ」という歌詞が使われています。
そんな彼らを、ヤンチャな若者たちが真似したことから始まり世間に認識されるようになった「マブイ」という言葉。しかし、ツッパリブームの衰退とともに影をひそめ、今となっては死語になっています。