「客死」とは
江戸時代、「旅に病んで夢は枯野をかけ回る」と詠んだ松尾芭蕉は、旅先の大阪でこの句を詠んだ4日後に客死しました。
「客死(かくし、きゃくし)」とは、旅先で死ぬこと、異国で死ぬこと、他国で死ぬこと、通常の生活拠点を離れた土地で死ぬことを意味します。芭蕉にとって旅は人生そのものとも言えるため、旅先で亡くなることは本望だったかも知れません。
「客死」の使い方
- 以前、東京のホテルで客死した外国から招かれた数学者のことを忘れられない。
- 今後、テロや災害で客死する邦人が増えることが予想される。
- 職員として視察中のロンドンにて客死。
「客死」した場合の対処
海外に出て生活する人や旅行者が増えた現代では、それに伴ってその地で亡くなる人の数も増えてきました。外務省が発表する「海外邦人援護統計」によると、年間500人から600人ほどの日本人が病気や事故などの理由で客死しています。
縁起でもないことではありますが、万一、家族や身近な人が客死した場合、どのような手続きを取ることになるのでしょうか。
海外で客死した際は、現地で火葬する方法と、遺体を飛行機で輸送する方法とがあります。その手続きの方法などについて、順に見てみましょう。また、日本国内で客死した場合についても説明します。
海外で火葬する場合
海外で亡くなっても、遺族がすぐに駆けつけられない、遺体の損傷が激しい、交通手段が少なくすぐに運べないという場合がありますね。その際は、亡くなったその地で火葬することになります。
そのためには、まず現地の医師に「死亡診断書」とその「翻訳文」を発行してもらいましょう。これは日本での死亡届けを出すために必要な書類です。
その後、大使館もしくは領事館に死亡届けを提出して、「埋葬許可証」と「遺体証明書」を取り、火葬するという流れになります。
日本で火葬する場合
訃報を受けた家族がすぐに駆けつけ、遺体を飛行機で運び、日本で火葬をすることもできます。その場合、遺体は航空貨物の扱いですから、事前にエンバーミングという長期保存処理をしてもらいます。
処理済みの遺体を航空貨物として手配・積み込みすると同時に、受け入れ側の日本でも、空港から葬儀場などへの配送の段取りを整えおきます。
一連の手続きにあたっては、大使館や領事館、また日本の葬儀社の協力が必須です。また、費用の面では、搬送費だけでも100万円を超えるそうです。
国内での「客死」した場合
海外での客死についてご紹介してきましたが、国内で客死する場合も、もちろんあり得ます。日本において、氏名や住所などが分からず、引き取り手がいない遺体は「行旅(こうりょ)死亡人」と呼ばれます。
海外での旅客とは異なり、日本での客死は自殺との関連性が高いことが多いとされており、なんらかの捜査が入る場合があります。
「客死」した著名人
古い方から順に、客死した記録のある有名人、著名人をご紹介します。
- 1596年:フランスの哲学者ルネ・デカルト。スウェーデンにて。
- 1754年:ロンドン警視庁の創始者、イギリス劇作家ヘンリー・フィールディング。リスボン(ポルトガル)にて。
- 1866年:ドイツの医師、シーボルト。ミュンヘン(ドイツ)にて。
- 1917年:ノルウェーの物理学者、クリスチャン・ビルケラン。東京にて。
- 1925年:中国の「国家の父」と呼ばれる政治家、革命家である孫文。北京(中国)にて。
- 1933年:教育者で思想家、新渡戸稲造、バンクーバー(カナダ)にて。
- 1938年:柔道家の嘉納治五郎、太平洋上にて。
- 1941年:アメリカの作家、シャーウッド・アンダーソン、パナマにて。
「客死」の英語表現
「客死」は英語でdying abroad、dying in a foreing land、dying while staying abroadと表現されます。
- He died abroad when his daughter was quite young.…彼はまだ娘が幼い頃に客死した。
- The professor died in a foreing land when he headed to the country where his family lived.…教授は家族の待つ国へ向かう途中、見知らぬ土地で客死した。
- Matsuo Basho died while staying in Osaka.…松尾芭蕉は大阪滞在中に客死した。