「屹立」とは?
「屹立」(きつりつ)とは、山などが高くそびえたっていること、また人などが少しも動かずに直立するさま、という意味です。
「屹」(キツ)の字は、「山」と「乞」(=「仡」:たけだけしい意)から成り、山が高くそばだつさまを表します。ただ「高く立つ」だけではなく、「険(けわ)しい」「厳(いか)めしい」というニュアンスが特徴的です。
ゴツゴツとした岩山が、ある種の威容さ・偉容さをもって天空に高くそびえ立っているさまを想像すると、「屹立」の意味が取りやすくなるかもしれません。
「屹立」の使い方
「屹立」は、何らかの対象物が高くそびえているさまを指して使います。字義的には「山」から来た言葉ですが、今日では比喩的な用法が主であり、「高く、険しく、厳めしく立っている」と形容できるものであれば、さまざまものに適用が可能です。
例えば、山から離れた都会的な生活の中でも、「高層ビル」や「東京スカイツリー」は屹立していると言えます。さらに、ひとつのものが概念として高く立っているという意味で、「日本映画史に屹立する傑作」という使い方も可能です。
ただし、やや重々しい印象を与える言葉であること、比喩表現としての使用が主であることから、「屹立」が日常会話で使われることは少なく、基本的には小説など書き物の中で使われる文語的表現です。
例文
- 三千メートル級の山々が屹立するアルプス山脈の光景は、何度見ても美しい。
- ステージの上に屹立し、じっと宙をにらんだ俳優の演技に、観客はみな息をのんだ。
- その時代、その帝国は、大陸を俯瞰するかのように、他を圧して屹立していた。
「屹立」の類語
「聳える」「聳り立つ」「聳立」
「聳える」(そびえる)、「聳り立つ」(そそりたつ)、「聳立」(しょうりつ)は、いずれも何かが「見上げるように高いこと」を表す言葉です。
ただし、「聳える」「聳立」が高さに重点が置かれている一方で、「聳り立つ」は、険しいことに重点が置かれているという違いがあります。前者二つは山や塔など高いもの、後者は崖などの地形をイメージすると良いでしょう。
「高く聳える時計塔」「聳り立つ高い壁」のように用いられます。「聳」の字が難しいため、一般的にはひらがなで「そびえる」「そそり立つ」と書かれることが多いでしょう。
「峙つ」「峙立」
「峙つ」(そばだつ)、「峙立」(じりつ)という言葉も、「屹立」に似て「高くそびえる」の意です。「稜立つ」(そばだつ)から来た言葉であり、元々は山の尾根(=稜)が立つさまを表しました。
「聳り立つ」と同様、「峙つ」も、険しさに重点が置かれています。主に、傾斜が急であるもの、荒々しく激しいもの、困難を感ずるものに使うことを覚えておきましょう。
「行く手には高い壁が峙つ」のように使用しますが、少々古めかしい言い方であるため、現在この用法が見られるのはやや堅めの文学作品の中などに限られています。
「突き出る」「突出」
「突き出る」、「突出」(とっしゅつ)は、「何かを突き破るようにして著しく外側へ出る」という意味です。少々動的なニュアンスが強くなりますが、大地を突き破って何かが垂直に立っているさまをイメージすると、「屹立」に近い意味合いですね。
「霧に包まれた都市の底からは、大きなビルがひとつだけ突き出ていた」のように用いましょう。
「切り立つ」
「切り立つ」(きりたつ)は、「切ったように鋭くそびえ立つ」という意味です。例えば、海沿いの断崖絶壁などのように、ざっくりと切ったような形で立っているものに使います。
「切り立った崖」のように使います。なお、ビルなどの建造物も見た目は鋭角で尖っていますが、単純な高さよりも傾斜(傾き方)に重点を当てた言葉であるため、垂直に作られる人工物にこの表現が当てられることは基本的にはありません。
「屹立」の英語表現
「屹立」を英語で言うと、「tower」です。「塔」を意味する名詞として日本語でも「タワー」というカタカナ表現がおなじみですね。
この「tower」を動詞的に用いることで、「屹立する」という意味を表すことができます。「above」「over」(上に)などの語を共に用いるのもよいでしょう。
例文
- The building towers over our houses.(その建物は私たちの家の上に屹立している)