「嗜み」とは?
「嗜み」(たしな-み)の意味は、大きく分けて以下の3つです。
- 好み、趣味。特に、芸事にかんする心得。
- 心がけ、用意。覚悟。
- つつしみ。遠慮。
現代においては、「大人の嗜み」「酒の嗜み方」などのように、主に1番目の意味、好んで親しむこと、何かに打ち込むことや、その心得という意味での用法がよく見られます。
辞書的には上記のように、「芸事にかんする心得」を含んでいますが、実際には単純に、「趣味・嗜好」の言い換えとして用いられることが多いようです。
また、使用頻度はやや落ちますが、2番目や3番目の意味でも、「嗜み」が使われることがあります。それぞれの使い方を順に見ていきましょう。
「嗜」の字義解説
「嗜」(シ)という字は、「口」と「耆」(キ)から成ります。「口」は、味わうこと、「耆」は、「旨」(うまい)という字に通じており、「口で味わい、喜び楽しむ」さまを表しています。
「嗜」の主な意味は、「常に好むこと」「あまんじる」「むさぼる」「こころがけ、つつしみ」などです。
「嗜好」(しこう:好み)という熟語は、日常でも使われることがありますね。他にも、「嗜虐」(しぎゃく:残酷なことが好きなこと)、「嗜癖」(しへき:あるものを特に好きこのむ癖)などの熟語があります。
「嗜み」の使い方①:好み・心得
「嗜み」の主な使い方は、「〇〇の嗜み」という形で、ある身分や立場における「好み、心得、趣味」を表す用法です。例えば、「大人の嗜み」であれば、「酒、煙草、車の運転、賭け事」など、年齢制限がある趣味や娯楽のことを言います。
また、「△△の嗜みがある」と言えば、その物事について一定の知識や経験、技術がある、やり方がわかっているという状態を表します。「ピアノの嗜み」「絵の嗜み」など、芸事の心得があるという意味でも使うことができます。
「心得があること」(=技能があること、承知しておくこと)と、「好み」は、必ずしも両立しませんが、「好きこそ物の上手なれ」の格言通り、「好み」と「心得」を橋渡しする言葉が「嗜み」であると言えるでしょう。
例文
- 書店で、『大人の嗜み…良い居酒屋の選び方』という本を見かけて、酒好きの私はつい衝動的に買ってしまった。
- 彼は、先進的な物理学者でありながら、書道や文学の嗜みもあり、文学界との交流も盛んだ。
「嗜み」の使い方②:心がけ・用意
「嗜み」には、「心がけ、用意」という意味での使い方もあります。こちらも基本的には、「〇〇の嗜み」という形で、その立場や身分において、当然用意されているべき知識や経験、技術のことを言います。
例えば、「紳士の嗜み」と言えば、身だしなみを整える、革靴を磨く、腕時計や万年筆などの小物を上品に揃える、女性への気遣いを欠かさない、など、紳士としての、「心がけ、用意」のことです。
また、派生的に、その立場や身分に求められる、「覚悟」の意味を持つこともあります。
例文
- 危険を顧みず、道路に飛び出した子どもを助けたスーツ姿の男性は、「男として当然の嗜みです」と言って立ち去った。
- 眠りかけていたのに、危急を察して、すぐに刀に手を伸ばしたのは、武士の嗜みと言える。
「嗜み」の使い方③:つつしみ・遠慮
「嗜み」の3番目の意味である「つつしみ、遠慮」は、今日ではあまり見られません。この意味単独で使うというよりは、「心がけ、用意」の意味にかぶせて、「当然そうあるべきつつしみ、遠慮」のニュアンスで用いられることが多いようです。
例えば、「女の嗜み」と言えば、女らしくあること、女としての心得、すなわち、(主に男性に対して)つつしみや遠慮を持つこと、といったニュアンスが含まれています。
また、捉えようによっては、「好み・心得」の意味で使う、「嗜み」にも、「〇〇(身分)であれば当然、心得があるべきであろうこと」という、遠慮と慎重さのニュアンスがある程度含まれていると言えます。
例文
- うるさく口ごたえをした少女に、老人は、「嗜みのない女だ」と悪態をついた。
- 紳士たるもの、いかなる時も嗜みをもって他人に接するべきだ。