「御の字」の由来
「御の字」(読み:おんのじ)はもともと廓言葉で、江戸時代初期に作られた語句です。廓言葉とは、江戸時代の遊郭(遊女たちを住まわせるために区切られた一定の地域)で使われていた言葉のことで、遊里語とも呼ばれます。
廓言葉は遊女の訛りを隠すために作られた独特な言葉です。遊郭には様々な地方から売られて来た女性が多く、出身地の訛りがどうしても残る人もいました。
その対策として、地域差や身分差を感じさせない廓言葉が作られたのです。廓言葉は上流階級の人をもてなすのにふさわしいよう、上品な響きが感じられるようになっています。
「御の字」の意味
「御の字」はそのまま字面だけで考えると「御という字」のことを指します。「御」は名詞の前に付けて、相手に対する敬意や丁寧さを表す語です。その「御の字」を頭に付けるくらいありがたいことを表しています。
前述の通り、「御の字」はもともと遊郭で使われる言葉でしたが、時代が下るにつれ、遊郭以外でも「御の字」という言い回しが使われるようになりました。それに伴って、いくつかの新しい意味・用法が派生しています。下に挙げるのはその例の一部です。
満足なこと
「御の字」の本来の意味、「ありがたいこと」から派生して、満足が行くことや、念願が叶って満足していることも指すようになりました。
【使用例】
- 難しいテストだったので、80点取れれば御の字だ。
- 車の修理費用が2万円で、予算内で済んだのは御の字ですね。
結構な・最上の
「御の字」はまた、最上のもの、結構な物や人を表す語句としても使われるようになりました。ただし、現在は口語で使われる機会の少ない言い回しです。
【使用例】
- 性格も手腕も申し分なく、委員長として御の字だ。
- この界隈では御の字のお客様だ。
「御の字」の意味が変化する?
平成20年度の「国語に関する世論調査」で「御の字」という言葉の意味について、文化庁が世論調査を行いました。
「70点取れれば御の字だ」の文章の意味を、10代後半~60代以上の男女に尋ねたところ、正しい意味「大いにありがたい」・「結果に満足している」で使っている人は全体の約38%。「一応、納得できる」・「まあまあ妥協できる」と言った意味合いと誤用している人が約51%だったということです。
20代~50代くらいまでは40%前後の人が正しく答えています。しかし、10代の場合は25%程度の人しか正答できなかったということです。
全体的に見ても、誤用している人が正しく使っている人を逆転しているのが見て取れます。言葉は時代が進むにつれて使い方が変わっていく場合があり、「御の字」の意味も将来変わるかも知れませんね。
- 問2 「御の字」について尋ねた「国語に関する世論調査」の結果を教えてください。
- 答 本来の意味である「大いに有り難い」と答えた人が4割弱,本来の意味ではない「一応,納得できる」と答えた人が5割強という結果でした。
平成20年度の「国語に関する世論調査」で,「70点取れれば御の字だ」という例文を挙げ,「御の字」の意味を尋ねました。結果は次のとおりです。(下線を付したものが本来の意味。)
〔全 体〕
(ア) 一応,納得できる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51.4%
(イ) 大いに有り難い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38.5%
(ア)と(イ)の両方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3.5%
(ア),(イ)とは全く別の意味・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1.1%
分からない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5.6%
「御の字」の類語
満足なこと
(望む通り・希望通り)
自分がかねてから希望したとおりに、実現したことを表します。
【使用例】
- 望む通りの学生生活を送れた。
- 希望通りの日に予約が取れた。
(文句がない・異議なし)
思う通りにことが運んだり、自分の願いが通ったのでクレームや反対意見を言いようがないといったニュアンスで使えます。
【使用例】
- しっかりと準備をしてくれたので、文句のつけようがないよ。
- あなたの意見に異議はない。そのまま進めてください。
結構な・最上の
(最高)
物事の程度が、最も良いことを表します。
【使用例】
- 今の気分は最高です!
- ドラフトでは最高の選手を引き当ててホッとしている。
(優れた)
他のよりも際立っていることを言います。
【使用例】
- 優れた人材が多く入社して楽しみだ。
- うちの会社では優れている人ほど転職していく。
「御の字」の反対語
満足なこと
(不満)
全く満足できずに納得がいかないことを表します。
【使用例】
- あんなに勉強したのに、検定試験で30点しか取れずに不満だ。
- 不満ばかり言っても何も解決しない。
結構な・最上の
(最低)
物事の程度や状態が望ましくなく、質が非常に劣ることを表します。
(最悪)
物事の状態が最も悪い状態のことを言います。
【使用例】
- 振られた上にリストラの憂き目にもあい、最低で最悪な一日だ。
- 最悪の事態も覚悟しなくてはいけなくて辛い。
- クレーマーで最低の客だ。