「悪手」とは?
「悪手」(あくしゅ)とは、囲碁・将棋などにおける「不適当な悪い手」のことです。ここでいう「手」は身体の部位そのものではなく、「何か良い手はないか」などの言葉に見られるような、策略、手段、方法、相手に勝つための技のことを指しています。
現代では囲碁・将棋のジャンルを超えて、一般的な「誤った選択」や「不適当な手段・方法」のことを意味する言葉としても使用されています。
「悪手」のように盤上遊戯の用語から一般化された言葉は多くあり、有名どころでは「王手をかける」「一目置く」「布石」などが挙げられますね。
「悪手」の使い方
将棋用語では駒を動かすことを「指す」と言い、囲碁用語では碁石を置くことを「打つ」と言います。したがって、これらの遊戯の用語である「悪手」も「悪手を指す」や「悪手を打つ」という形で用いられるのが一般的です。
「その一手は明らかな悪手だった」などのように名詞として用いることも問題ありません。
どのような手が「悪手」か?
「悪い」という字が当てられている「悪手」は、誰が見ても明らかに「失敗」「誤り」「致命的」と言えるような手を指します。
将棋・囲碁であればその一手が明らかな原因となって形勢が決定的となるような手。一般的な用法であれば、取り返しのつかない失敗や、計画・戦略の崩壊を導く選択のことです。
良い手でなかったことは確かだがはっきり「悪い」とまでは断言できない、という手の場合には、「疑問手」(ぎもんしゅ)や「緩手」(かんしゅ)などの用語を使いましょう。
例文
- 挑戦者の激しいプレッシャーと迫りくる制限時間が、〇〇名人に悪手を打たせた。
- 対戦相手がすかさず打ってきた返しの一手を見て、名人は、直前の自分の手が世紀の大悪手だったことに気づいた。
- 他に頼るべき人はいくらでもいたのに、あのとき強欲なAさんに電話してしまったのは明らかな悪手だった。
「悪手」の対義語
「悪手」の対義語について、直観的に反対の意味を思い浮かべると「良手」「善手」などの字が浮かびますが、このような言葉は使われていません。
「悪手」の対義語として挙げられる言葉は、以下の通りです。
好手
「好手」(こうしゅ)は、好ましい手段、うまい技の意味です。ここから派生して「弓の好手」のように「技の優れている人」そのものを指す場合もあります。
将棋・囲碁だけで使われている用語ではありませんが、「悪手」の対義語として盤上遊戯においても使用されています。
最善手
「最善手」(さいぜんしゅ)とは、読んで字の如く「最も良い(と思われる)手」のことです。
最も良い手、というと簡単そうですが、「将棋の局面数」(すべての盤面の組み合わせの数)は宇宙にあるすべての原子の数にも匹敵するという説があります。そこから現在の状況下で最善の一手のみを抜き出す作業は、常人には至難といってよいでしょう。
将棋界の天才と言われた羽生善治さんが、自らの将棋の流儀について「ただ、ひたすら最善手」と語ったことでも有名です。
妙手
「妙手」(みょうしゅ)は、非常にうまい手段のことです。「好手」と似ていますが、こちらは凡人ではなかなか思い浮かばないような奇をてらった手、一見びっくりするような珍しい手というニュアンスです。
良い手
「良手」(りょうしゅ)という言葉はありませんが、その代わりに「良い手」という言い回しは「悪手」の反対語としてよく用いられます。
「好手」「妙手」「最善手」などは専門家目線のやや堅めの表現ですので、良いと思った手段・方法には、素直に「良い手だ」と言ったほうがスマートかもしれません。
「悪手」の英語表現
「悪手」の英語表現としては、まず「bad move」が挙げられます。「move」はチェスの駒を動かすことですので、これによって将棋・囲碁における「手」の意味を表しているわけですね。
しかし、一般的な意味で「不適当な手段」を表す場合、「bad move」では単純に「悪い動き」という意味にとられてしまいかねません。
「不適当な方法を取ってしまった」などの一般的な用法の場合には、「bad choice」「fault」などの表現を用いたほうが意味が伝わりやすいでしょう。
例文
- He made a bad move.(彼は悪手を打った)
- It was a clearly bad choice.(それは明らかに悪手でした)